皆さんこんにちは、Tです。この頃の季節はすっかり秋模様。北関東では朝晩の冷え込みが厳しくなってきました。この季節に恋しくなるのが……人肌です。お互いに抱き合って暖を取る。残念ながら筆者には縁もゆかりもない話ですが、魚にはこの季節でなくてもいつも何かにくっついている。そんな寂しがり屋な魚たちがいます。本記事ではこの季節にぴったり?の「吸盤で吸い付く魚」たちをご紹介します!
なぜ吸盤で吸い付くの?
アクアリウムで飼育される熱帯魚で思いつくものといえば、上記に挙げたオトシンクルスや大型のソコモノのプレコ。彼らは野生下でも口元にある吸盤で石や流木にくっついて表面に生えるコケや有機物を主食としています。彼らの故郷に注目してみましょう。
プレコの故郷は南米アマゾン。一部を除いて、流れの強い渓流のような場所に生息しています。そんな環境で石や流木に生えた藻を食べるのです。一般的な魚のような体のつくりでは、常に泳ぎながら採食しなければなりません。体力がどんどん奪われてしまいます。そこで彼らは口元に「吸盤」を備えることを選択したのです。何かに吸い付いていれば体力消耗を軽減できます。実際に拡大写真でご覧いただきましょう。
※集合体恐怖症の方はご注意ください。少しグロテスクな画像かもしれません。
こちらはロイヤルプレコの口元を拡大した写真。外側は吸盤ですが口元には吸盤状の大きな歯が複数並んでいます。この歯で表面のを削り取るようにしてコケや藻を食べます。大型プレコの中には流木をかじってしまう程、力の強い種類も。
その代表種がロイヤルプレコの仲間。ロイヤルプレコの仲間は他のプレコと比べると植物質のものをより好む傾向があります。現地でも、流木や倒木を好んで食べるそうで、木の主成分であるセルロースを消化・分解できるといわれています。
彼らが吸盤を選んだ理由は体力温存かつ効率的に採食をするためだったのです。
吸盤ってどうなっているの?
渓流のような強い流れにも負けない吸盤。どのような構造なのでしょうか。
“モノとしての”吸盤
モノとして存在する吸盤が壁面に吸い付くメカニズムをご存じですか?
吸盤を軽く対象物の上に置きます。すると、吸盤の吸い付く部分と対象物との間には隙間が沢山。
圧力をかけると対象物との間は真空状態になります。空洞部分は非常に低い圧力になり、外からの大気圧に押されて弱い力では外れなくなるというメカニズムです。
“動物たちの”吸盤
自然界にあるものは顕微鏡で見れば微細なデコボコや傷がたくさん。ましてや石や流木は目に見えてデコボコだらけ。動物たちの吸盤もメカニズムはモノの吸盤と同じなのでしょうか?どのように真空状態を作り出しているのでしょう。
動物たちの吸盤にもさまざまな構造が存在します。例えばカエルは、吸盤の間からリンパ液などの粘液を分泌させます。対象物との真空状態を作りどんな場所でもくっついていられます。
爬虫類のヤモリは、カエルとは違い足の裏のヒダに微細な毛が大量に生えています。真空状態は作らずそこに小さな凸凹をひっかけてどんな壁でも上ります。
“魚たちの”吸盤
水の中で生活する魚たちも例にもれず、真空状態を作り出して吸い付きます。吸い付く際に使うのは口の周りに発達している「筋繊維」。筋肉を収縮させる事で真空状態を作り出し、対象物に吸い付いています。メカニズムはモノの吸盤と同じです。大型のプレコを流木から引きはがすのは相当な力が必要なんだとか…。恐るべきプレコパワーです。
環境によって変わる吸盤の位置・形
これまで口回りに吸盤がついている魚をご紹介しましたが、魚の生活様式や生息環境に合わせ吸盤を付ける場所もさまざまです。
腹ビレが吸盤になっている魚
両方の腹ビレが変形して吸盤のようになっている魚をご紹介します。このタイプの魚は比較的流れの速い渓流のような場所に生息し、採食ではなく姿勢維持のために吸盤を活用します。泳ぎが苦手なハゼの仲間などに多いです。
ヌマチチブ
北海道から九州に広く生息するハゼの仲間です。ハゼ類の多くは姿勢維持のため、両方の腹ビレが変形して吸盤になっていることが多いです。
ヨシノボリ
写真はシマヨシノボリ。日本、台湾、南西諸島に生息するハゼの仲間です。頭部の赤い斑紋と体側のしま模様が特徴的な種類です。写真の赤丸部分が吸盤になっています。
腹ビレ・口が両方吸盤になっている魚
比較的流れの強い環境で、主に藻類を食べる魚たちは腹ビレが変形して吸盤のようになっている器官と共に、口にも吸盤を持つというまさにプレコとハゼのいいとこどりをしたような体の構造をしています。
ボウズハゼの仲間
ボウズハゼの仲間は色彩変異が多いことや、※両側回遊魚で生息域が広いことから分類、同定が難しく、良く似た種が他にも知られます。自然界では石に付いた付着藻やそこにわく微生物を食べています。水槽内でも発生する藻類を食べますが、他にもブラインシュリンプやアカムシなどを与えるとよいでしょう。
スティフォドンの仲間
こちらもボウズハゼの仲間です。ナンヨウボウズハゼ属に属する種類がスティフォドンと呼ばれます。美しい色彩を持つ種類が多く、流通量が少ないレアな種類です。飼育方法は基本的にボウズハゼと相違はありません。
両側回遊魚とは?
①卵は川でふ化する
②ふ化した稚魚は川を下り海へ
③稚魚はプランクトンが豊富な海面近くを漂う浮遊生活期に入り成長
④やがて川に戻る
という一生のうちに海・川の両方を行き来する魚のことをいいます。
からだ全体が吸盤になっている魚
ヒルストリームローチの仲間
急流域に適応したコイの仲間です。小型のためちょっと変わったコケ取り生体としておすすめです。飼育は難しくありませんが、溶存酸素が多い環境を好み、高水温に弱いです。エサはプレコタブレットなどの植物質のものに慣らせるとよいでしょう。腹部・胸ビレ・腹ビレ全体が吸盤となっているのが最大の特徴です。チャームの出荷の際も網ではすくいにくいほど、ピッタリ吸い付いています。写真は香港島、中国広東省原産のホンコンプレコです。
ボルネオプレコ
インドネシアのボルネオ原産の急流域に適応したコイの仲間です。一般にボルネオプレコの名称で流通する中にはさまざまな模様のものが見られます。本種はその中でもスポット模様を持つタイプで、このスポット模様にはいくつかの種が含まれています。飼育はホンコンプレコなどと同様で、溶存酸素が多い環境を好み、高水温に弱いです。エサは時間はかかりますが沈降性の人工飼料に慣らせるとよいでしょう。
おまけ
上記の種類の他にも、何かに吸い付く魚はたくさんいます。淡水・海水問わず少しだけご紹介!
コバンザメ
コバンザメの仲間はサメとは付きますが、サバやカジキといった仲間と近縁なグループであるスズキ目に属します。頭部にあるコバン状の吸盤が特徴で、これがコバンザメの名前の由来になっています。吸盤で他の魚に吸い付き、その魚の寄生虫などを食べています。
30cmくらいまでは浮遊性の大型魚類やカメ類に吸着して生活しますが、成長すると自由遊泳するようです。
フウセンウオ
丸みを帯びた独特の体型と吸盤状に変形した腹ビレが特徴的な海水魚です。色彩はオレンジ~黄色が多く、ダンゴウオに比べ大型になります。本種は夜行性のため、飼育の際は暗めの環境が適しています。20℃以上の水温は弱ってしまう原因となるため、クーラー等で15~18℃に保つ必要があります。
吸い付く魚ではないですが本当にキス行動をする魚がこちら!
キッシンググラミー
発達した唇で2匹がキスのような行動を見せることで古くから親しまれるポピュラーな種です。このキスのような行動は愛情表現ではなく、オス同士の闘争行為であることが知られています。1属1種の本種は、グラミーの中でもやや大型になる種で、ノーマル体型では20cm、バルーン個体でも10cm以上になります。飼育は容易ですが、やや気が荒く同種間だけではなく、他魚に対しても突付いたりする行動が見られます。
個性的な吸い付く魚を飼育したい!
どこかかわいらしく個性的な彼らたち。ぜひともお迎えしたいですよね。人気魚種をピックアップして飼育方法を解説します。
オトシンクルス・アルジーイーターの飼い方
オトシンクルスやアルジーイーターはガラス面や水草の葉に生えたコケを食べてくれる優秀な清掃員です。オトシンクルスはほとんど水草の食害をしないので水草レイアウト水槽にピッタリ!アルジーイーターでは、人工飼料に餌付くとコケを食べなくなってしまうので注意が必要です。また、両種とも水槽セット初期に発生する茶ゴケをよく食べるといわれています。
両種とも、基本的な熱帯魚の飼育と変わりません。水草水槽とも相性バッチリ。彼らなら水槽をきれいに掃除してくれるでしょう。ただ、水槽内のコケが少ないときは彼らまでエサが行き届くようエサの量を調節しましょう。
水質・水温
一般的な熱帯魚を飼育するように中性~弱酸性が適しています。水温は 20~28℃を目安に飼育しましょう。
底床
水草レイアウト水槽に導入することを考えてソイルが良いでしょう。
餌
基本的に水槽内のコケを食べますがコケが少ない場合は様子を見て、沈下性の熱帯魚フードを与えましょう。
混泳
温和な性格で気の荒い魚・肉食魚でなければ基本的に混泳可能です。水草水槽との相性もバッチリ。
チャームではオトシンクルス専用のフードもご用意しています。ぜひお試しください。
プレコの飼い方
小さな種類は10cm、大きな種類になると30cmを超えるともいわれるプレコ。南米アマゾンが原産地で、300種類以上存在するといわれています。多くの種類は水の流れが速く酸素量が多い所に生息しているので、エアーポンプや水中フィルターで水槽内の酸素量を多くしてあげましょう。また、夏場の高水温には弱いので注意が必要です。よく食べよく排泄します。ろ材が目詰まりしやすいので、こまめに洗浄しましょう。
水質
一般的な熱帯魚を飼育するように中性~弱酸性が適しています。水温は 22~25℃を目安に飼育しましょう。
底床
プレコは底床で体表の細菌を落としたり、採食時微量な砂を取り込むことで体内を掃除するといわれています。底床を入れるなら細かい砂が良いでしょう。
餌
大食漢です。沈下性の熱帯魚フードを与えましょう。プレコ専用のものも各メーカーから多数販売されています。
混泳
基本的に温和な性格です。プレコのみの場合は飼育数を多めにして縄張り意識を緩和させましょう。多種の場合は、サイズが同等の種類であれば、基本的に問題ありません。
ここで1つオススメの器具をご紹介。エーハイムフィルターには水中に微細な空気を水槽に送り込むことができるオプションパーツ、「ディフューザー」があります。ディフューザーは取り付けるだけで水中の溶存酸素の増加が狙える優れモノ。溶存酸素要求度の高いプレコの飼育にはもってこいのアイテムです。
ヨシノボリ・ヌマチチブなどの日本淡水魚の飼い方
水質
水質は中性~弱アルカリ性、水温は10~28℃と適応範囲が広いです。低水温には強いですが夏場の高水温には弱いので注意が必要です。
底床
川の底にあるような砂利が良いでしょう。ヨシノボリでは細かめ~中粒くらいのものを選ぶと石をくわえて運ぶ巣穴づくりの様子を見ることができるかもしれませんよ。
餌
活餌を好みます。口に入るサイズの小魚やエビを与えましょう。活餌が入手しにくいという方は冷凍赤虫が嗜好性が良いのでおすすめです。
混泳
基本的に同体格であれば混泳可能です。
ボウズハゼ・スティフォドンの仲間の飼い方
水質
水質は中性~弱アルカリ性、水温は23~25℃と適応範囲が広いです。低水温には強いですが夏場の高水温には弱いので注意が必要です。
底床
中性から弱アルカリ性の水質が合っているため、水質をアルカリ性に傾ける作用のある砂利などが適しています。
餌
草食性が強く基本的に水槽内のコケを食べますがコケが少ない場合は様子を見て、沈下性の人工飼料を与えましょう。人工飼料に餌付かない場合も多く、その場合は冷凍赤虫を与えると食べることがあります。
混泳
基本的に同体格であれば混泳可能です。
“吸盤で吸い付く”という選択をした魚たちのまとめ
いかがでしたでしょうか?強い水の流れの中、体力温存をしつつ効率よくエサを食べるためにヒレや口を吸盤のように進化させた彼ら。決して寂しがり屋なわけではなく、過酷な環境に適応するために編み出されたれっきとした生存戦略です。飼育すればあなたの水槽の優秀なコケ掃除担当に、あるいは愛嬌たっぷりの癒しの存在に。はたまた圧倒的な存在感を放つ自慢の家族になること間違いなしです。個性的な彼らをあなたの水槽にもお迎えしてみてはいかがでしょうか?
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