「たくさん種類があってどの肥料を選んだらいいかわからない……」
「有機肥料に化学肥料、窒素リン酸カリウムどれを重視したら良いんだろう?」
「陸と水中での肥料の効きって違うの?」
今回はそんな疑問にお答えするべく、ハスとスイレン、そして水辺植物用の肥料について解説します。
ハスとスイレンに使いやすい肥料
まずは「使いやすい肥料」の紹介から入りましょう。
肥料は一般的に園芸用が推奨されていますが、実は水草用が安全性が高く使いやすいです。
園芸用の肥料は効きが強いもの、水の中には向いていないものがあります。そのため、入れ過ぎてしまうと用土内で腐敗したり、ハスの根が肥料焼けを起こしたりしてしまうことがあります。
特に油粕などをはじめとした「陸上用の有機肥料」は水中では腐りやすく、どちらかというと成分や土壌微生物の働きを理解している上級者向けのアイテムと言えるでしょう。
水草用肥料は水が富栄養になりにくい仕様になっており、肥料分も強すぎないものがあります。
そのため、ビギナーの方にも安心して使える製品が多いのです。
水草用肥料
園芸肥料で使えるもの
水辺植物に使う有機肥料の注意点
野菜作りやガーデニングなどで重宝される有機肥料。
ハスやスイレン用の肥料としても古くから油粕や身欠きニシンなどが使われてきました。
ですが、初めてハスとスイレンを育てるという方には有機肥料の使用はおすすめしません。
それはなぜか?
答えはシンプルに「有機成分(タンパク質やアミノ酸など)が土の中で腐る」からです。
有機肥料が腐敗してしまうと硫化水素の発生でメダカやエビが死んでしまうことがあります。
さらに有機物を分解する病原性の腐敗菌やカビなども大量に増えてしまうことが問題で、これによってハスやスイレンの根を腐らせてしまうこと(腐敗病の発生)にも繋がってしまうのです。
陸と水中では環境が違うということ
なぜ陸で使って大丈夫な有機肥料が水中で腐敗してしまうのか?
その理由は「陸と比べて水中は酸素が不足しやすい環境」だからです。
陸上では酸素が豊富にあり、土を耕すなどして土中にも酸素が多く取り込まれる状態になります。
そのため、有機肥料は主に酸素を好む好気性微生物によって安全に分解されます。
ところが水中だと酸素は水に溶けにくいことから、その全体量は空気中より大幅に下がります。
さらに土の中は2~3cm下がったところでも酸素が極めて少ない嫌気領域になりやすいのです。
油粕や身欠きニシンのような「微生物による分解が進んでいない有機肥料」にはタンパク質や脂質が多く含まれており、これらが嫌気環境で分解されると硫化水素やメタン、アンモニアが発生します。
これらが少量なら大きな問題にはなりにくいのですが、一度に大量に発生してしまうと水の中に溶け出す可能性が高まります。
硫化水素やアンモニアが水中に溶け出してしまうと、メダカやエビが中毒死してしまうこともありますので注意しましょう。
酸素のない嫌気環境にも微生物たちの生態系があり、その仕組みがしっかり機能していないとこのように特定の有害物質が多量に発生したり水辺植物やメダカなどの病気の原因にもなってしまいます。
※水草の根は嫌気領域に適応していますが、過剰量の硫化水素により根腐れを起こすことがあります。
こういった理由から、水中や土の中で「何が起こるのか」を理解していないと有機肥料は使いにくい面があるのです。
嫌気領域について知っておきたいこと
・酸化された元素を還元する役割がある
・一部の有機酸(短鎖脂肪酸)も嫌気領域で合成される
・特に鉄を二価へ還元し、キレートさせる役目が重要
・水辺における元素循環の根幹を担っている場所
・水草の根は嫌気環境に適応しているものが多い
有機肥料の「種類」を確認しよう
有機肥料にもたくさんの種類があります。
まずは発酵済と未発酵。
このうち、水辺植物に使うなら発酵済のものを使いましょう。
さらに大きく分けて「畜糞や骨粉を使った動物由来のもの」と「落ち葉や樹皮などを使った植物由来のもの」があります。
動物由来の堆肥はタンパク質の量も多く、水中で腐敗することから使うときは少量に留めます。
そして水辺植物用として有機の成分で主に欲しいものは、腐植質(植物の遺骸)です。
植物由来のものも、なるべく原材料の樹種や部位の確認ができるものを選びましょう。
例えば油粕は植物由来ですが、油を搾った種子の残りなので樹皮や落葉などと比べてタンパク質の含有量が高いということがわかります。
ここから「一度に大量に入れ過ぎないようにする」「蓮根や根茎から離して入れる」ということがポイントとなってくるのです。
水中で有機肥料を活かすために知っておきたいこと
有機肥料を使う場合は硫化水素やアンモニア、メタンの発生があることを念頭に置きましょう。
これらは単に有害な物質というだけではなく、嫌気領域におけるさまざまな微生物の活動や物質の循環の過程で発生しているものです。
泥内の嫌気領域は悪いことだけではなく、栄養(元素)循環の重要な役割も担っています
水中で有機肥料をしっかりと効かせるにはこの現象をある程度理解しておく必要があります。
そして有機肥料を活かすためには用土の選択も重要です。
用土の解説はこちらになりますので併せてご覧ください。
さらに重要なポイントが腐植質です。
腐植質には泥中の嫌気領域で働く大切な役割があります。
それは嫌気性微生物が腐植質に含まれる繊維質をエサにして有機酸を生成し、さまざまな物質を還元していく働きです。
この過程で肥料分や元素がキレートされ、植物の根から吸収しやすい形になっていくのです。
さらに嫌気領域で生成される有機酸の中には酢酸や酪酸、プロビオン酸などの短鎖脂肪酸が含まれ、これらには腐敗菌などの病原性細菌の増殖を抑制する作用もあります。
同時にこれらが脱窒菌やリン酸蓄積細菌の炭素源やエネルギー源としても機能するため、腐植質は嫌気領域における微生物相のバランスを良好に保つために必要なものなのです。
有機肥料を使うためのセッティングの一例
これらを踏まえて有機肥料で失敗しないためのセッティングの一例です。
これで必ずうまくいくというものではありませんが、有機肥料で起こり得るリスクをなるべく避けるポイントがこちらになります。
- 有機肥料を入れる場所は蓮根や根茎から十分に距離をあける
⇒硫化水素の影響や腐敗病の発生を防ぐため - 有機肥料の周辺には赤玉土(桐生砂でもOK)を多めに混ぜる
⇒鉄が多く含まれるため硫化水素を吸着(結合して硫化鉄に)する性質がある - 腐敗菌の繁殖抑制のため酸性のピートモスを混ぜておく
⇒なるべくpHの低い(有機酸が多い)ものを使用する
まとめ
今回は簡潔にまとめようとしたつもりが、少し込み入った内容になってしまいました。
ハスやスイレン用の肥料として有機肥料が紹介されていることが多いですが、水中の土の中でどういったことが起きているかまでの説明はほとんど見かけません。
なのでちょっとだけ深掘り解説をしてみましたが、いかがでしたか?
嫌気領域における微生物と元素の動きはアクアリウム全般に応用できることなので、記憶の片隅にでも留めていただければ幸いです。
水中における肥料の使い方要点
- 水草用の固形肥料を使うのがお手軽で安全
⇒もともと水中で使うことを想定した作りになっているため - 園芸用肥料は陸上での使用を想定しているため、水中では挙動が変わるものがある
⇒IB肥料は「水溶性のコーティング」なので陸上と水中で性質が変わる - 原則として肥料は根から離した場所へ入れる
⇒肥料焼けや腐敗病を避けるため - 水辺植物用として有機肥料は上級者向け
⇒しっかり活かすためには嫌気領域の動きを把握しておく必要がある
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