ムジナモとは
生物学的情報 | |
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名前 | ムジナモ |
別名 | Waterwheel plant |
学名 | Aldrovanda vesiculosa |
分類 | モウセンゴケ科ムジナモ属 |
分布 | 全世界の温帯~熱帯域 |
育成要件 | |
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主な用途 | 浮草として |
水温 | 15~28℃ |
pH | 5.8~7.0 |
光量 | 30cm水槽:1000lm 60cm水槽:3000lm 90cm水槽:5000lm |
CO2添加 | 野外育成:必要なし 水槽内育成:1滴/1秒 |
ムジナモは、モウセンゴケ科の食虫植物でもある水草です。
世界中の水辺で確認されている水草ですが、流れの少なく自然度の高い湿地に生息することから開発により急速にその自生地を減らしています。
日本では1890年に牧野富太郎博士によって江戸川区小岩で初めて発見されました。
和名の由来は捕虫葉がタヌキの尻尾に似ていたことと、既にタヌキモの名前が別の水草に使われていたことから「ムジナモ」と呼ばれるようになりました。
日本国内では環境破壊が進行した高度経済成長期の1960年代以降に野生絶滅したとされていますが、埼玉県の法蔵寺沼や群馬県の多々良沼の株が現在でも系統維持されています。
主に流通する日本産のムジナモは法蔵寺沼系統が多いといわれており、アクアリウムルートではオーストラリア産の赤いムジナモなども稀に見られます。
近年、国内で現存する新たな産地も発見され注目を集めています。
ムジナモの育て方
水槽内と屋外での育て方は用意する道具が変わりますが、共通することがあります。
それは腐植質の供給と貧栄養な(窒素とリン酸が少ない)水質です。
ここを押さえれば屋内と屋外両方での育成がやさしくなります。
セッティングについてもこの点に重点を置いて行いましょう。
ムジナモ育成の要:腐植質
ムジナモを育てるうえで最も重要な要素が腐植質です。
ムジナモが世界中で減少し、日本でもほぼ野生絶滅となった要因のひとつとして、環境破壊により山と湿地で作られる腐植質が著しく減少したことが挙げられます。
好む環境要素のひとつが、貧栄養(窒素とリン酸が少ないこと)でありながら腐植質が豊富にあるような水質であることから、開発の影響を非常に受けやすいというわけです。
小型容器や水槽での育成
水槽内で育てる場合は一般的な水草水槽の設備で問題ありません。
一点だけを除いて。
それはブラックウォーターです。
高光量+高濃度CO2の水草水槽でも育成はできますが、それだけでは不安定になる面があります。
安定して育てるにはキレイにレイアウトされ水の透き通った水草水槽よりも、ブラックウォーターの水槽のほうが調子が上がりやすいというなんとも悩ましい性質を持っています。
なんと、ブラックウォーターの供給ができれば小型水槽どころかボトルアクアリウムでも充分に育成が楽しめるようになるのです。
(南米産水草が調子よく育つ環境で散々いじけて苦労したのはなんだったのか…というレベル。)
小型容器
小型容器でのセッティングはブラックウォーターを基本として、落ち葉や木の実系の腐植資材を入れましょう。
粒状ピートをソイル代わりに敷いても問題ありません。
大きめのボトルであればベタと一緒に飼育することも可能です。
※ベタを一緒に飼う場合は週1回の小まめな水換えを行ってください。
魚と一緒に飼う場合は水が富栄養化しますので、定期的な水換えが必要です。
ボトル入りブラックウォーター
薄めずストレートで使えるものと、濃縮されたエキスを添加するものがあります。
自然素材
見た目にこだわりたい方は自然系素材を使いましょう。
水槽
育成はブラックウォーターがあったほうが容易になることから、一般的な水草レイアウト水槽向けとは言い難い面があります。
ですが、それを利用してピートスワンプ系のクリプトコリネやバルクラヤなどブラックウォーターを好む水草と一緒に育成するのに向いています。
粒状ピート
水草水槽でブラックウォーターを作るには粒状ピートが使いやすくおすすめです。
ネットを使いフィルターに入れて使用します。
自然素材
流木や落葉などの自然系素材を使ってのレイアウトもおすすめです。
流木のアクをそのまま残すのもありです。
ブラックウォーターって何?
ブラックウォーターとは植物の遺骸が微生物により分解された腐植質と呼ばれる物質が豊富に含まれた水のことです。
このブラックウォーターには腐植質だけではなく、そこから生じた有機酸や植物が持っているタンニンをはじめとしたポリフェノール類も豊富に含んでいます。
これらの物質が水に茶色い色を付けます。
このような植物と微生物が作り出した有機物が豊富に溶けた水をアクアリウムではブラックウォーターと呼んでいます。
※流木のアクもブラックウォーターの一種です。
このブラックウォーターに含まれる有機酸が岩石から金属元素を溶け出させキレートすることから、生態系のサイクルにおいては重要な役割を持っています。地球上に生息するあらゆる動植物にとって有用な働きをすることから、ある意味で命の水と言えるかもしれません。
水槽やボトルで育てる場合に水換えをするときは、このブラックウォーターを用意しましょう。
おすすめの腐植質供給資材
ブラックウォーターを作るためにはさまざまな素材が使えます。
ここでは、それらを紹介しましょう。
長繊維ピートモス、アンブレラリーフ、自然素材系
腐植質供給資材としてスタンダードなのが、これらの自然素材です。
主にピートモスや枯葉、植物の実などがあります。
そのまま飼育容器に入れて少しずつ成分を染み出させる方法でも使えますが、鍋などで煮出すことで濃厚なブラックウォーターを作ることができます。
これらを煮出すときの鍋は食事に使うものではなく、専用に使うものを別に用意しましょう。
※煮出すときは土と草が入り混じったような臭いも出るので、ご家族とお住まいの方は注意してください。
粒状ピートモス
ピートモスをはじめとした自然素材を粉砕して粒状に加工したものです。
成分をじわじわ染み出させる用途に向いています。
粒状なので小型の容器であれば、そのまま入れて使うこともできます。
水槽で使う場合はネットに入れて水槽内かフィルター内に入れて使いましょう。
ボトル入りブラックウォーター
天然の素材から抽出されたブラックォーター資材もあります。
素材と比べるとややコストがかかる面がありますが、飼育水に入れるだけという手軽に使えるメリットがあります。
小型容器で栽培するときなどに手間がないのでなかなか重宝します。
ピートモスなどの自然素材を鍋で煮込むことに抵抗を感じてしまう方は、これらの製品を使ってみてください。
腐植質の働きについてはこちらの記事も併せて参照ください。
水草水槽の用品
「水草水槽で育ててみたいけど、水草水槽の用品についてよくわからない……」という方はこちらの記事をご参照ください。水草水槽の基本について解説しています。
屋外での育成
屋外での育て方は一般的な水辺植物と同じ睡蓮鉢などで育成可能です。
押さえるべきポイントは水が富栄養化するとアオミドロが発生してムジナモが弱るということ。
そのためセットしてすぐの睡蓮鉢やビオトープよりも、セット後2年以上経過して安定した環境が適しています。可能なら水が茶色く色付きつつも透明感のある状態が理想的です。
ですが、そんな安定した環境になった睡蓮鉢やビオトープなんてすぐには用意できません。
そこで活躍するものが「赤玉土」と「ブラックウォーター」。
もしくは「赤玉土」+「粒状ピートモス」なども使えます。
赤玉土に余分な栄養塩を吸着させて、ブラックウォーターを注ぐことで水質的な条件はとりあえずクリアすることができます。
セットして1年目はそれでもアオミドロが出やすいので、目につき次第小まめに取り除くようにしましょう。
屋外におけるムジナモの大敵として意外なものに、台風など大雨時の増水があります。
かつて在った自生地における記録を調べていくと「台風時の増水で流されてしまい、激減してしまった」といった記述が必ずといってもいいほど出てきます。
さらに、増水で流されてしまったまま個体群の数が回復せずにその場所から絶滅してしまったという記録も複数の「元自生地」の記録で散見されるほどです。
ムジナモが急速に姿を減らしてしまった原因として、開発による腐植質の激減の他にもムジナモが引っかかって生きていけるような水辺植物が豊富に生えた穏やかな岸辺がなくなってしまったことも要因として挙げられるでしょう。
必要な用土
ムジナモは水面に浮遊する水草なので直接根を下ろすことはありません。
そのため、ムジナモ単体で栽培する場合は植え込むためではなく、水質の調整目的で使います。
※他の水辺植物と一緒に栽培する場合は植え込み用の土が必要になります。
赤玉土
赤玉土には余分な栄養塩と硬度物質を吸着する作用があります。
鉄分が大量に含まれることからリン酸と強力に結合する性質と、陽イオン交換作用により飼育水を軟水化させる性質を利用します。
ムジナモ育成においては赤玉土で飼育水の貧栄養化と軟水化を行い、腐植質供給資材を使ってブラックウォーター化させる使い方をおすすめします。
田土
田土はミジンコなどの微生物を湧かせたい場合に活躍します。
熱処理がされていない田んぼの土なので、さまざまな動植物の卵や種が生きたまま含まれています。
貴重な水草が生えてくることもありますが、ガマやヨシといった巨大な水辺植物が生えてくることもありますので田土を使う場合はよく観察しましょう。
ムジナモ育成においては水質調整というよりはエサとなるミジンコなどの動物性プランクトンの種としての使用が主になります。
けと土
けと土はコストパフォーマンスの良い腐植質資材として使えます。
使用上の注意点は、直接水の中に入れるとドロドロに溶けて水を濁らせることです。
時間が経てば沈殿しますが、細かい泥がムジナモに被さるので見つけしだい払い落としてください。
けと土を水中に入れる際は赤玉土を上に敷くか、足し水の際に巻き上げないよう静かに水を注ぎましょう。
ガラス容器や水槽など屋内で育てるときは見た目が汚くなってしまうので、おすすめしません。
他の水辺植物を入れる(植える)場合はこちらの記事も併せて参照ください。
ムジナモ育成におススメの生体
睡蓮鉢やタライとトロ船で作るビオトープ向けの生体たちです。
ムジナモ まとめ
ムジナモは個性の強い見た目に違わず、育成面においてもクセのある水草です。
古くから水草や食虫植物の栽培をされている方でも手を焼いた経験のある方は少なくないかと思います。
そんなムジナモもポイントさえ押さえてしまえば結構簡単になってしまったりします。
筆者もブラックウォーターでこんなに簡単になるとは思わず、驚いた一人です。
この記事がムジナモを育ててみたいと思った方のお役に立てれば幸いです。
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