名前の通り、長~い手が特徴的なエビです。日本にも生息するポピュラーなエビですが、淡水にも汽水にも広く分布し、大型から小型まで種類も豊富にいます。海外種は輸入の規制もあって、今では輸入される個体は減っていますが、日本から海外の種までテナガエビの魅力をとことんご紹介いたします!
生物学データ
学名:Macrobrachium
分類 | テナガエビ科テナガエビ属 |
体長 | 10cm(種により異なる) |
食性 | やや肉食 |
分布 | 世界中・各地 |
テナガエビは、熱帯・温帯の淡水域や汽水域に生息する大型のエビです。日本には「テナガエビ(Macrobrachium nipponense)」「ヒラテテナガエビ(Macrobrachium japonicum)」「ミナミテナガエビ(Macrobrachium formosense)」が本州から九州にかけて生息しています。また、南西諸島には上記3種を含め15種が生息しています。
海外にはまた違ったテナガエビの仲間がいます。
和名「テナガエビ」の通り、第2歩脚が長く観賞用として人気があります。
夜行性のため、昼間は物陰や水草の茂みに隠れていますが、曇っていると昼でも活動する姿を確認することができます。
肉食性で、水生動物や魚の死骸、イトミミズなどの有機物を食べますが、藻類などを食べることもあるようです。飼育下での餌が不足すると共食いしてしまうので注意してください。
テナガエビの種類
本土産テナガエビ3種
なじみのある3種。どれも飼育方法は同じで入手もしやすいです。
テナガエビ
学名:Macrobrachium nipponense
本州・四国・九州・台湾に生息。
釣り餌や食用として身近に感じる方も多いのではないでしょうか。
詳細はわかりませんが、この種だけ陸封型と降海型が存在しているようです。
ミナミテナガエビと類似していることや、スジエビと混ざって入荷されることも稀にあります。
ヒラテテナガエビ
学名:Macrobrachium japonicum
本州・沖縄・台湾に生息。
本州にいる3種の中では比較的上流を好んで生息しているようです。
基本的に茶色の体色に背面に黒い帯が入り、第2胸脚は左右非対称であることが多いです。(採取地により体色の違いがあるようです。)
前胸部に波状の細かな縦縞があり、腹部の中間にあるバンド、ハサミの色彩から成長していない頃からでも判別が可能になるようです。
「ヤマトテナガエビ」という別名を持ちます。
ミナミテナガエビ
学名:Macrobrachium formosense
本州・沖縄にかけて生息。
生息域が広く、下流~中上流で見られます。
ミナミテナガエビは他の種に比べて色彩変異個体が多いといわれています。
テナガエビと外見が似ているところがありますが、ハサミの先の毛が少ない体外にM字の模様がより太い点、額角・胸脚指節が太い点で判別が可能です。
本州3種の見分け方
本州から沖縄まで生息域の広い3種「テナガエビ」「ヒラテテナガエビ」「ミナミテナガエビ」には見分け方があります。
ハサミ(第2胸脚)
頭胸甲羅(側面の柄)
腹部(第3腹節)の帯状の柄
南西諸島のテナガエビ15種
上記3種のテナガエビより飼育水温が高めでも飼育できますが、入手困難になります。
コンジンテナガエビ
学名:Macrobrachium lar
沖縄・インドに生息。
国内最大種で体長15~20cmほど、個体により鮮やかな色をまとう非常に美しい種でもあります。
本土ではほとんど見ることありませんが、沖縄の河川で比較的見ることができるようです。
ザラテテナガエビ
学名:Macrobrachium australe
沖縄・東南アジア・インドに生息。
ヤリのような額角や頭胸甲側面に3本のライン、第2胸脚には名前通りのザラザラとした細かい突起を持つ特徴があります。
ナンヨウテナガエビと酷似しており、識別は難しいようです。
オニテナガエビ
学名:Macrobrachium rosenbergii
東南アジア原産の種。
世界最大の淡水エビといわれ、体長30cmになります。成長前はスジエビに似た容姿ですが、赤い額角と筋状の模様で判別が可能です。
「アジアンブルーロブスター」「ブルーワームロブスター」の別名を持ちます。
コツノテナガエビ
学名:Macrobrachium latimanus
沖縄・東南アジア・インドに生息。
最上流域などに生息しています。本州太平洋沿岸・鹿児島などで確認されたこともあるようです。
短い額角や腹節の縞模様、上縁歯数が少ない特徴を持ちます。
生息環境の関係上、採取がとても難しいようです。
オオテナガエビ
学名:Macrobrachium grandimanus
沖縄・東南アジアに生息。
名前の割に体長は小さく、片方のハサミが大きくなるのが特徴的です。環境破壊による生息域の減少から、絶滅危惧種としてレッドデータブックに登録されているようです。
ネッタイテナガエビ
学名:Macrobrachium placidulum
台湾、東南アジアに生息するテナガエビです。
複雑な色彩が特徴的な種で、オスは左右非対称のハサミを持ちます。
アクアリウムにおいて流通する本種はネッタイテナガエビの学名である、「マクロブラキウム・プラシダルム」の名前で輸入されてきます。
しかし実のところ、カスリテナガエビやマガタマテナガエビなどよく似た類縁種と混同されている可能性が高いです。
画像の個体は台湾やインドネシアから輸入されていたタイプで、日本産のものとは別種かもしれません。
最大体長5.5cmほどの小型種で、頭胸甲側に縦線が入ることが特徴です。
中流域の流れの強い場所に生息しています。
ネッタイテナガエビ自体は日本国内では生息域の環境破壊により生息数が減少し、レッドデータブックにも記載されています。
ツブテナガエビ
学名:Macrobrachium gracilirostre
口永良部諸島以南・沖縄に生息。
体長12cmと南西諸島に生息する種の中では大型です。緑の体色に赤いラインが入っていて、とても美しい色彩を持ちます。
環境破壊による生息域の減少から、沖縄県版レッドデータブックでは準絶滅危惧種に分類されています。
スベスベテナガエビ
学名:Macrobrachium equidens
種子島以南・沖縄のマングローブに生息。
額角がやや長くハサミは左右同じで、腹部側面にきれいな赤いスポット、第2胸脚関節部に黄色、ハサミに青が入る特徴があります。
第2胸脚が他種と違ってスベスベしていることが名前の由来になっているようです。
沖縄県版レッドデータブックでは準絶滅危惧種に分類されています。
希少なテナガエビ
ショキタテナガエビ
学名:Macrobrachium shokitai
西表島に生息する日本固有種。
体長は6cmほどで日本で唯一の大卵型の種です。名前は日本の淡水エビ研究の権威、諸喜田茂充先生から献名されたようです。
タイリクテナガエビ(Macrobrachium asperulum)と近縁種で交雑してしまいますが、交雑種は生殖能力を持たないようです。
ショキタテナガエビとタイリクテナガエビの識別方法は額角歯数・第2胸脚の違いとされます。
環境省版レッドリスト:準絶滅危惧
沖縄県版レッデータブック:絶滅危惧Ⅱ類
カスリテナガエビ
学名:Macrobrachium sp.
沖縄島・八重山諸島の中流域急流に生息。
体長は5cmと小さく、ネッタイテナガエビ、マガタマテナガエビと類似しているようです。
分布も沖縄諸島、石垣島、フィリピンでの採取記録があり、広い範囲で生息していると考えられています。
こちらの種も沖縄県版レッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類に分類されています。
チュラテナガエビ
学名:Macrobrachium sp.
宮古島や石垣島、西表島に生息。
宮古島では現在、生息が確認されていないようです。
体長が4cmと日本では最小種で、中上流域での確認報告があるようです。沖縄県版レッドデータブックでは情報不足カテゴリーに分類されています。
マガタマテナガエビ
学名:Macrobrachium lepidactyloides
沖縄島、西表島の一部の河川に生息。
体長7cm、体色は緑褐色で白の帯の模様が入ります。頭胸甲側面に3本のラインがあり、最上部の線が体側まで達していることが特徴です。
ネッタイテナガエビやツブテナガエビなどと同じく、中流域の流れの強い場所を好みます。個体数が少ないことから、沖縄県版レッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類に分類されています。
「アジアギガントシュリンプ」の名で以前輸入されていた種は、本種と同種の可能性があります。
ヒラアシテナガエビ
学名:Macrobrachium latidactylus
石垣島・西表島・沖縄島に生息。
体長は7cmほどと大きい部類ではありませんが、第2胸脚の片方がオオテナガエビ以上に肥大化しているところ、ザリガニのように頭でっかちな特徴もあるようです。
特別珍しい種ではなかったようですが、採取事例がある場所でも確認が難しいことから希少性が高く、沖縄県版レッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類に分類されているようです。
ウリガーテナガエビ
学名:Macrobrachium miyakoense
宮古島・石垣島・沖縄島のアンキアラインに生息。
2005年に記載されましたが、発見数も少ないこと、採取にも手続きが必要なアンキアラインに生息しているために採取が困難のようです。
環境省版レッドリスト:絶滅危惧Ⅱ類
沖縄県版レッドデータブック:絶滅危惧ⅠB類
※アンキアライン=地下で海と連絡している汽水の水域のこと。
ナンヨウテナガエビ
学名:Macrobrachium ustulatum
沖縄島のみ生息が確認されていますが詳細は不明です。
ザラテテナガエビと酷似しています。成体でないと識別はできず、採取も困難のようです。
海外のテナガエビ
写真画像の一部でのご紹介ですが、今はもうお目にかかることはなくなった国外のテナガエビです。
チャームでもかつては海外種を多く取り扱ってきましたが、もう輸入できなくなっています。
※淡水ピストルシュリンプはテナガエビではありませんが、飼育要件がヌマエビ類とは異なるため、便宜的に「テナガエビ・スジエビ」のカテゴリで紹介しています。
画像のみのご紹介ですが、産地によって色彩も外見も異なり、日本の種とも多くの違いから魅力があります。
飼育環境
水槽サイズ
水槽のサイズは45cm~で問題はないでしょう。大きいサイズの方が水質が安定し、水温の変化も少ないため、急激な変化に弱いテナガエビにオススメです。
フィルター
テナガエビは大食漢であるため、水を汚しやすいです。水質を安定させることを考えると2つ用意するか、お選びいただく水槽のワンランク上を選ぶと良いでしょう。
水温・水質
適正水温は国産・本州域が0~25℃・外国産・南西諸島域が20~28℃、水質は弱酸性~中性と比較的幅広い水質に適応します。
底床(ソイル)
弱酸性から弱アルカリ性と幅広い水質適応能力から
底床は砂利からソイルまで使用可能です。
単種飼育の場合、中性~弱アルカリ性を好む点から大磯・田砂などを使って、環境を作ってあげると良いでしょう。
混泳
食性が肉食性であることから小型のエビや魚は捕食されてしまいます。
大型の肉食魚には逆に捕食されてしまう危険があるので注意が必要です。
小型種のテナガエビでは多頭飼育も考えられますが、大型種同士では縄張り争いが起きてしまいます。
貝類は混泳可能です。
混泳OK
混泳NG
繁殖
テナガエビの繁殖期は5月~9月で夏に多く産卵するようです。
チェリーシュリンプ・ビーシュリンプなどの稚エビの状態で生まれる大卵型の種と、ソエア幼生で汽水・海水が必要になる小卵型の種と両方のタイプが存在します。
(ほとんどが両側回遊型)
大卵型(日本唯一の大卵型の種:ショキタテナガエビ)であれば水槽内での繁殖も可能ですが、大型の種になると、成熟するサイズまでの成長期間、オス・メスのペアでの飼育では小卵型・大卵型問わず争う点、生殖行動でのオスの精子によって水の白濁から水槽内のバランス崩壊を招く恐れがあること(すぐに水換えをする)から水槽内で繁殖は大変難しいと思われます。
抱卵した場合(小卵型)
飼育下での小卵型の繁殖成功例がす少ないため、参考例としてお考えください。
飼育されているテナガエビが交接し抱卵した場合の方法は、
卵が発眼し始めたことを確認したら、隔離水槽へ親個体を移動させます。
移動させる前に海水を70%薄めた飼育水を準備しておき、(海水70%に対し、淡水30%。2Lの海水を作って3割程度捨て、淡水を3割入れます)
2~3Lの水量の容器にスポンジフィルター、エアレーションを入れ、親個体を移動させて様子を見ます。
ふ化した後、親個体は元の水槽へ移動させ、フィルターを入れておけば1~2週間は水換えしなくても問題ないと思いますが、可能であれば1日少量の水換えを行うと良いでしょう。
餌は植物プランクトンやデトリタスを食べて育ちます。
成長(30日でゾエアから稚エビへ変態)し、脚を底につけて生活しはじめたら徐々に飼育水を
海水(汽水)の比重を徐々に下げて淡水に近づけるようにします。
(海水(汽水)から急に淡水にかえると浸透圧の関係で害を及ぼすので注意してください)
準備が諸々必要なこと、成功例が非常に低いことから、一般飼育下での繁殖は難しいとされています。
まとめ
混泳には向きませんが、単独飼育での楽しみを持つ種ではないでしょうか。
体色や柄など成体になるまで段階を踏まえて楽しむこともできます。
種によっては変異色体が多く、コレクション性も高いこと、大きく肥大化するハサミも魅力の一つです。
特に「テナガエビ」「ミナミテナガエビ」「ヒラテテナガエビ」の3種は比較的身近な種といえ、入手の機会も多いでしょう。
テナガエビ類はいずれも、環境破壊から減りつつあります。
特に、南方系の種に関してはその影響が顕著であるようです。
飼育を通して、自然と向き合ってみるのもよいでしょう。
また、「希少なテナガエビ」として紹介したテナガエビ類は、その流通はほぼありません。
南西諸島の希少テナガエビ類の生息基盤はいずれも脆弱といわれています。
元々テナガエビ類は混泳に向かないということもあり、単独飼育が原則です。
採集規制のない種であったとしても採集はごく少数にとどめるべきで、むやみな乱獲はしてはなりません。
むしろ、これらの希少なテナガエビ類に興味がわいてきたら、保全活動などに参加してみるのも良いでしょう。テナガエビ類を取り巻く環境問題にも、ぜひ目を向けてみてください。
本記事を通してのテナガエビの飼育が、環境問題に関心を持つきっかけへと繋がれば幸いです。
コメント
AQUALASSIC 様
コメント失礼致します。
crazy shrimpというブログを運営しているebinaというものです。
貴サイトの記述のカスリテナガエビが西表島からの採集記録があるという点について、こちらは当方のカスリテナガエビの記事を参考に書かれたと存じますが、この記述は私の誤りによって記述してしまった内容であるため、お手数をおかけいたしますが当該箇所の削除をお願いいたします。
また、僭越ながら当方のテナガエビ保全に関する意見を述べさせていただきます。
ご存じの通り南西諸島のテナガエビの多くは絶滅危惧種等に指定されており、マニアによる採集圧が個体群の減耗の要因になることもあります(実際、昆虫では採集者が増えたことによって、採捕規制がかかるケースもあるようです)。
そのため、AQUALASSIC様のように多くの人(特に生体販売・飼育に関わる人)が閲覧するサイト内では、自然と向き合うという意味も込めて乱獲防止を啓蒙する文言を記述してほしいと考えております(当方の記事も改めてこの点を考慮した内容に変更する所存です)。
大変失礼とは承知しておりますが、同じテナガエビ類について啓蒙する記事を作成している身として強く進言させていただきます。
失礼のお詫びとしてですが、貴サイト記述内容について3点ご助言させていただきます。記事内容の改善のお役に立てれば幸いです。
1. 観賞魚業界でネッタイテナガエビとして紹介されている種は、ネッタイテナガエビとは別種になります。写真の種は、カスリテナガエビと類似します(本種である可能性が高い)が、近縁種が多いため別の海外の種である可能性は否定できません。
2. 海外のテナガエビとしてアジアギガントシュリンプを紹介していますが、こちらはマガタマテナガエビと同種となります。おそらく、当時はM.hirtimanus?として扱っていたと存じますが、正しくはM.lepidactyloidesです。
3. ご存じの上かもしれませんが、ピストルシュリンプはテナガエビ類でなく、テッポウエビ類であると把握しております。
大変長文となり、誠に申し訳ございません。
いつもcharm様にはお世話になっております故、もしショキタテナガエビ等の画像をご所望でしたら、当方の持ち合わせている画像に限りますが提供も可能ですので、お申し付けください。
何卒よろしくお願い申し上げます。
ebina様
コメントありがとうございます。
編集チームで精査、修正、加筆をさせていただきます。
細部につきまして確認いたしますので、しばらくお待ちいただけますと幸いです。
貴重なご意見、情報をありがとうございます。
ebina様
カスリテナガエビについて
ご指摘ありがとうございます。西表島の表記について削除させて頂きました。
現段階では西表島を生息域に含む資料、含まない資料が混在している状況と認識しております。
環境保全、乱獲防止について
当チームとしてもアクアリウムを長く楽しんで頂くための記事として、環境保全についても言及させて頂きます。
ネッタイテナガ、マガタマテナガエビについて
ご助言心より感謝いたします。頂いたご助言を元に説明文への追記、修正をさせて頂きます。
また、淡水ピストルシュリンプについて記事内での説明が至らず申し訳ありません。
当店では、飼育要件がヌマエビ類と異なる淡水ピストルシュリンプについては、『テナガエビ・スジエビ』のカテゴリに分類させて頂いております。
そのカテゴリからの紹介となりますので、こちらも誤解を招かない構成、追記をさせて頂きます。
改めてご指摘ありがとうございます。
当サイトでも、できる限り信頼性の高い情報を掲載して参りたいと思います。
古い情報やまだまだ情報が少ないものに関しては、頂いた情報を元に都度更新させていただきます。
引き続き、本サイトをよろしくお願いします。
貝類の画像が混泳NGになっていますよ。訂正お願いします。
アグバー様
貝類混泳の表示について
ご指摘ありがとうございます。
当該箇所につきまして確認しましたところ、混泳OKの旨ではあるのですが、スマートフォン表示した際に誤って混泳NGに割り振られている見た目になることを確認しました。
当該箇所は修正させていただきました。
引き続き、本サイトをよろしくお願いします。