社会科の授業では必ずと言っていいほど、「実はオランダ語である単語」の話が出るかと思います。パンはオランダ語で英語ではブレッド。この話の並びに出てきても不思議ではないのがピンセットです。実はピンセットはオランダ語で、英語ではツィーザーと呼ばれます。アクアリストに限らず、ペットを飼われていなくても1本はお持ちではないでしょうか。日用品を扱う店に行けば数百円も出せばとりあえずのものは手に入るでしょう。しかし…
適当に選んでいませんか? 高いもの=いいものとお思いではありませんか?
道具の使用感は趣味への没入感を大きく左右します。もちろんピンセットもその一つ。
今回はそんなピンセットの話です。
ピンセットの観察をしてみよう
ピンセットの構造は単純ですが、着目すべき点がいくつかあります。まずはその外観を見ていきましょう。
全体の形状
ストレートなものやカーブしているもの、ルーツェ式と呼ばれるもの、逆機構なもの、さまざまあります。
ストレートタイプ
よく目にするピンセットといえば、やはりストレートタイプでしょう。その汎用性は高く、とりあえずこれを選んでおけば間違いありません。
カーブタイプ
先端から数センチのところに45°ほどの角度がつけられているタイプです。メーカーからは水草用ピンセットとして、ストレートタイプと合わせてモデル違いで販売されていることが多いです。持つ角度を大きく変えなくても180度回転させるだけでつまむ角度を変えられることが強みです。
ルーツェ式タイプ
グリップ近くで段が付けられた形状をしています。その独特な見た目からは何か特別使いやすそうに感じさせられます。水草用と銘打って販売されていることがありますが、元々は耳鼻科などの医療機関で細い穴を覗き込みながら使えるようにこの特殊な形状が生まれました。他のモデルと比べるとお値段も一段上に設定されていることが多いです。
逆作動タイプ
通常のピンセットの仕組みはグリップをつまむと先端も閉じるというものですが、逆作動タイプはその名の通りグリップをつまむと先端が開く仕組みです。つまんだまま手を離しても保持できるので、細かい加工をする場合に非常に便利です。これは他のタイプとは異なり、本質的にはピンセットというよりも取っ手としての機能があります。
先端の滑り止め加工の有無
先端の内側には細かいものをつまんで滑らないようにギザギザの加工があるものとないものがあります。水草用のピンセットは多くがギザギザ付きですが、加工のない商品もあるのでよく確認してみましょう。現在、チャームで取り扱いのあるピンセットは70点あります。そのうち水草用・水草水槽関連で使用しやすそうなものは60点ありますが、その多くがギザ加工されたものでした。後述しますがギザ加工に関しては後でどうとでもできるので、まずはサイズと形状を優先して選んでいきましょう。
チャーム式!水草を植え込むポイント
有茎草の下処理
有茎草とは茎を持つ水草のことです。有茎草を植え込む際は底床に埋まる部分の葉を切り離しましょう。基本的に埋まる部分に葉を残しておいても光合成に参加できず、底床の中で枯れて腐ってしまいます。少し葉を残すことで植え込みが安定する、抜けにくくなるという考え方もありますが、チャームでは完全に取り去る方法で育成しています。根が出ている場合は無理に取る必要はありません。
ロゼット型水草の下処理
ロゼット型水草は有茎草とは対照的な見た目です。葉が中心から外に向かって放射状に広がっており、中心から新しい葉を伸ばし成長していきます。身近な植物では、多くの葉物野菜がこれにあたります。下処理は簡単で、古い葉と根を除去するだけです。どの程度除去するかは種類によってかなり差があるようですので、それは他の記事に期待しましょう。
確実に植え込むコツ
根が出ている場合はその先端、有茎草の場合は茎の一番端、ロゼット型水草は根の先端をつまんで底床に引き込むイメージで植え込みます。つまむ角度は水草に対して45度がおすすめです。
田植えでは根の付け根部分を持って泥に押し付けるように植えますが、水草の場合はそれだと浅くしか植えられません。底床の中に引き込むように植えることで、しっかりと深く植えることが出来ます。これだけでかなり安定した植栽となるでしょう。
前景草の場合
景草とはレイアウト水槽の場合、手前に配置するのに使用しやすい種類の水草のことです。前景草の多くは前述の有茎草ですが背丈が低かったり短いことが多いため、初心者には栽植難易度が高く感じられることが多いようです。
植え込みが浅いと少し揺れたりエビが触ったりしただけで浮いてしまい、なかなか根を張ってくれないことが難易度を高くしています。前景草の場合は無理に葉を除去する必要はありません。3cmほどに短く切りほとんどを埋めるように植えましょう。葉の先端が出てさえいればそこから成長してくれます。
数が多い、広い面積を植えないといけない場合はある程度の塊で、これも同じように埋めるように植えることで作業速度アップが図れます。ただし、あまりに塊が大きいと浮いてしまう原因になりますので1cm程度に留めておくのがいいでしょう。
こちらの動画で詳しく水草の植え方をご紹介しているので、参考にしてみてください。
▽前景草の植え方▽
▽有茎草の植え方▽
▽ロゼット型草の植え方▽
うまく植えられたと思ったのに……次の朝には水面に水草が浮いてしまっていた
こんな失敗はありませんか?これは、植え込んだ後ピンセットを抜く際に水草も一緒に抜いてしまっていることが原因です。ポイントは水草をつまんだピンセットを植えた後に軽く開き、ピンセットの延長方向に抜くこと。その後、水草の生え際に底床を軽く寄せてあげることでさらに安定するでしょう。
植え込む時は長めのストレートピンセットだけれど……
アクアリウム用品メーカーから出ている専用ピンセットをみると、その多くは30cm前後の長めのストレートタイプのピンセットです。水草水槽は植え込む作業が多いためストレートタイプの方が水槽の底へ届きやすく使いやすいです。
好みの分かれるのが、先端のギザギザ加工の有無です。前述の通り、水草用として販売されているピンセットの多くはつまみやすいようにギザ加工があります。しかし、これは逆に引っ掛かりにもなるため人によっては使いにくく感じるでしょう。
使い勝手最高です。つかみ心地がよく重宝しております。
ギザ有りピンセットの商品レビューから引用
植栽用に購入。 値段の割には微妙でした。先は太め、滑り止めの為の加工が仇となってソイルから抜くときに水草が付いてくる始末。 自分には合わない商品でした。
ギザ有りピンセットの商品レビューから引用
水草も植物ですので、しっかり植え込むことさえできれば多少の浮力があったとしても安定して水底に根付いてくれます。つまりしっかりと植え込むことこそが水草育成の最重要ポイントと言っても過言ではありません。
ピンセットをカスタムしてみよう
水草を植えるのが難しいと感じる人は、ピンセット自体が植栽を難しくしている可能性を考慮してみましょう。残念ながら水草用と銘打たれたピンセットは必ずしも万人が使いやすいものではないのが現状です。それぞれに難しい点があるのであれば、カスタムすることで最高の道具へとなり得るでしょう。よくある問題点からどのようにカスタムするかご紹介します。
※1 カスタムしたことによる器具の不具合・損傷・故障及び事故等の責任は取りかねます。カスタムは自己責任で行ってください。
ギザが引っかかる
ギザ加工が引っかかって使いづらいという際は削るのも一つの手でしょう。先端にギザ加工がある場合、先端の外縁はノコギリ状になっています。そこをヤスリがけすることで(※2)使用しやすいピンセットへとカスタムできます。ギザギザ加工を完全に削り落とした場合は、ピンセットの先端が合致するように内側の面出ししましょう。
筆者の個人的なおすすめは、指先で触った際にかろうじて凹凸がわかる程度まで攻めたカスタムです。水草自体の弾力にその微妙な凹凸を食い込ませることでしっかりとホールドし、丁寧で確実な植栽が可能になります。
※2 防錆加工やメッキが施されている場合は削った部分から腐食することがあります。
さらに尖らせたい
鋭利なピンセットでも使用すると摩耗により先端が丸くなってきます。これも削り研ぐことで購入時以上の繊細な作業のできるピンセットへとカスタムできるでしょう。手順は次の2ステップ。
1.ピンセットを閉じた状態で、外側から削ります。
2.先端に向けて撫で付けるようにヤスリを動かしましょう。虫眼鏡で先端が左右そろっているかを確認しながら行うと、より精度の高い鋭利なピンセットが完成します。
鋭利なピンセットでは、より細かな作業が可能となります。筆者は種子を剝く際に使用しています。発芽のむずかしい種子は給水を促すために外皮を剥くことがありますが、ここでカスタムピンセットが活躍しています。
※鋭利なピンセットで自分をうっかり突くと非常に危険です。手元に気を付けながら作業しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ピンセットは趣味の世界で幅広く使用されている道具の一つです。その中でも水草水槽というごく一部の一面的な話をしてきました。その選び方、使い方を意識すればただの道具から便利な道具へ。そして細かなカスタムを経て自分の指先へと昇華できるでしょう。
使いやすい道具を手にすることで趣味はさらに身近なものになると思います。
アクアリウムの中でも水草水槽は少しハードルが高いかもしれませんが、迷い込んでしまった際の便利な指針の一つになれば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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