「アクアリウム」から端を発した「~リウム」問題。
その筋の皆さんがそれぞれに楽しむ、そして日本人が大好きな造語であふれる、「~リウム」について独自の解釈を交えて解説をしていきます。
リウム【-arium】とは、ラテン語で「~な場所」、「~の空間」のことを指します。
アクアリウム
アクアリウム
まずは超オーソドックスにアクアリウムについて。
アクア(水)+リウム(場所/空間)文字通りだと「水の空間」ということになります。
が、なんとaquariumという英単語は直訳すると「水族館」という意味になります。
海外では
アクアリウム/aquarium=水族館
アクアホビー/aqua hobby=観賞魚飼育
というなんとなくの区分けがあります。
ちょっとややこしい話になるので、ここでは日本で使われる「アクアリウム」に関して定義していこうと思います。
アクアリウムをさまざまに楽しむ人が出てきているため、アクアリウムの定義を「水槽の中に作られた水の生態系」と限定してしまうにはあまりに取りこぼしが多くなります。最近のアクアリウムの風潮を鑑みると「人為的に用意された限られた場所に人工的に作られた水の生態系、もしくは水のある景色、水生生物の飼育場所」なんてざっくりとしたものかなと感じます。
「人為的に用意された限られた場所」は、水槽でもコップでも庭の池でもプールでも良いのです。そこに植物なり動物なりが生息できる環境を作り上げる。できれば雰囲気として水の比率が高く、水の中で完結しているとアクアリウム感が強くなるでしょう。
マリンアクアリウム
マリン/marine(海の)+アクアリウムです。アクアリウムの中でも使用している水が海水で、いわゆる海水水槽というやつです。
そこで育てるものが海水魚なのか、クラゲなのか、サンゴなのか、はたまたシャチなのか……
一般的に淡水水槽に比べると海水水槽は難しいといわれています。というのも、水槽の水の蒸発により海水濃度が変わりやすく、水質の維持が難しい上に、海水の生物の方が水質悪化に弱いからです。
そのため、できれば大きい水槽に高性能なフィルターやプロテインスキマー、リアクター、UV殺菌灯、比重計等が場合によっては必要になります。
ちなみにこの話でいつも問題になる汽水(河口付近の淡水と海水が混じり合った中間的な塩分濃度の水体)水槽に関してもは淡水水槽とされる場合も多く区分けがしづらいのが現状です。
コーラルアクアリウム
コーラル/coral(サンゴの)+アクアリウムです。マリンアクアリウムの中でもサンゴを育てることを主目的とした水槽をそう呼びます。
え?同じ「海水水槽」でよくない?と一瞬思ったことでしょう。
全然ダメ、全然ダメなのです。
サンゴを育てることはその特殊性から通常の海水生物を飼育するための水槽とは一線を画しているのです。
- 水質(海水魚水槽と比べ物にならないほどの高度な水質維持が必要になってきます。)
- 光(サンゴの種類によって必要な光の波長・強さが異なり専用ライトが必要です。)
- 水流(サンゴの種類によって必要な水流の強さ当て方があるんです。)
- 餌(サンゴもエサを食べるのです。専用の餌が必要です。)
ボトルアクアリウム
ボトル/bottle(瓶の)+アクアリウムです。
小さな瓶の中で小さな生態系を作り上げ、魚などを育てることをそう呼びます。
難しい器具や道具不要で手軽に始められることから非常に敷居が低いアクアリウムではありますが、狭い空間で生き物を長期飼育することはかなり難しいため、飼育する生き物は限られるのと、こまめな手入れが求められる場合があります。
小さな空間で育てられるバランスのとれた生態系を維持できれば、手入れも簡単で場所も取らない、日々の最高の癒しになってくれることに間違いありません。
バランスドアクアリウム/パーフェクトアクアリウム
ボトルアクアリウムの理想形を語った直後に語られるバランスドアクアリウム。
バランスド/balanced(バランスの取れた)+アクアリウムは、文字通り「生態系のバランスが完璧に取れ、その限られた空間の中で完結される究極のアクアリウムの姿」といわれています。
(別名でパーフェクトアクアリウムと表現される場合もあります。)
しかし、この言葉にはさまざまな解釈があります。
- ボトルアクアリウムのようにほとんど手間をかけずに育てることを指す(完全に生態系が成り立つ究極系は完全密閉のボトルを使うこともあります)
- 後述するネイチャーアクアリウムやナチュラルアクアリウムのように、水草の育成を主体とし、水草の水質浄化作用だけで水換えの頻度など、人の手間を極端に少なくしたスタイル(窒素サイクルがうまくいっているからこそ成り立ちます)
- ビオトープのように屋外環境で太陽光と植物の水質浄化作用を利用して人工装置を使わずに環境を維持するスタイル
共通することは、生態系のバランスが取れているので人間が手を加える必要がほとんどないということです。水草・生体・バクテリアがそれぞれの生命活動でその環境のバランスを崩すことなく維持することが可能だからです。
アクアリウムが目指すべき一つの理想形ともいえるかもしれません。
ダッチアクアリウム/ダッチレイアウト
ダッチ/Dutch(オランダ式の)+アクアリウム
ガーデニング大国オランダにおける水中庭園とも呼ばれます。その歴史は長くなんと150年!
オランダは夏以外は基本的に寒い国のため、寒い季節も水草を楽しみたいというガーデニング魂がこのオランダ式アクアリウムに詰まっています。本国でのダッチアクアリウムのルールはかなり厳しく、オランダ国外で行われているのはあくまでも「ダッチレイアウト」というレイアウトスタイルのことを指します。
そしてこのダッチアクアリウム、語彙力が疑われる感じの一言で言うと「水草もりもり」。
ガーデニング大国オランダ、水槽のレイアウトも「花壇のように」あるべきことを第一に考えています。魚を飼う場所ではなく、あくまでも水草を魅せる箱庭。オランダ人の考える「花壇」は人工的に整然と並べてその美しさを鑑賞します。目指しているものは限られた箱の中に花壇を凝縮する概念。
その国の文化が凝縮されているという点では、日本の盆栽文化や日本庭園の文化にも通ずるものを感じますね。
ダッチアクアリウムの特徴
- 基本的には石や流木は使わない。あくまでも主役は水草。流木や石は仕切り程度の扱い。すべての水草が見えるように前方は低く、後方は高くひな壇状に植える。
- 水草ごとの区別をしっかりつける。自然に生えている感じを出さない。区別が付きやすいように隣同士に違う質感・葉形状・色・枝ぶりの水草を配置する。
- 有茎草は美しい頭頂部が見えるように少し高さを変えてまとめて植える(水草ごとに数本~十数本)。そしてこの美しい頭頂部を残すため、トリミングをする際は頭頂部をカットするのではなく植えられている下部をカットし「差し戻し」を行う。
- 水槽全体に水草を隙間なく配置。水草を水面いっぱいまで成長させるため、立ち上げから完成まで時間がかかることが多い。
企業が提唱するアクアリウム
ネイチャーアクアリウム
アクアブランド「ADA」創始者であり、写真家の天野 尚氏が提唱したアクアリウムの考え方です。
水草を育てることで水槽の中に良好な環境をつくり、さらに魚やエビなどの生き物を一緒に育てることで自然の生態系を再現するネイチャーアクアリウム。それは、自然の美しさと調和のとれた環境が融合して創られる独自の世界。健康に育った水草が生い茂り、色とりどりの熱帯魚が泳ぐ美しい水景は、人の心も癒してくれます。
出典:ADA「ネイチャーアクアリウムとは」
日本のアクアリウム業界をけん引するその功績は計り知れず、参加国数60カ国以上、総エントリー数2,000作品以上という世界最大級の水草レイアウトコンテストを開催しています。
ネイチャーアクアリウムは、自然の再現、自然の風景を切り取ったようなレイアウトを目指しています。三角構図・凹型構図・凸型構図と呼ばれる構図により、水槽という狭い空間で今までのレイアウトでは再現できなかった「奥行き感」を表現することに成功しています。
水草のトリミングも「ピンチカット」という手法を使って、有茎草の分岐を増やして植物の密生感を出しています。栄養価の豊富なソイルがピンチカットにも耐えられるような水草の育成を可能にしているのです。
ナチュラルアクアリウム
ドイツのアクアメーカー「セラ社」の推奨するアクアリウムの考え方です。
自然を水槽内でいかに再現するかという事を基本にしています。
出典:株式会社セラジャパン「ナチュラルアクアリウムとは」
自然を100%再現することは不可能ですが、近づけることが飼育者が生き物のために出来る最低限のサポートだと思います。
そのため、底砂も執拗な要因ですし、装飾物の流木や石、水草を飾ることも自然の再現には欠かせません。
そして、水草と魚やサンゴと魚の共存水槽を推奨しています。
その為、必然的に~
飼育する魚の選択は、同じ水域に生息している魚と植物を一緒に飼育するアクアリウムになります。
テラリウム
テラリウム
テラ/terra(陸地の)+リウム(場所/空間)
アクアリウム(水の空間)に対し、陸地の生態系や環境再現をしたものをテラリウムと呼びます。アクアリウム同様に人為的に用意された限られた空間に陸地の環境を作り上げます。
その起源は古く、18世紀~19世紀にかけて世界中の植物を生かしたまま船でヨーロッパまで持ち帰る技術として、密閉されたガラス内での保湿と保温を目的とした「ウォードの箱」というものが作られました。それがテラリウムの始まりといわれています。
密閉されたガラスの中で植物を育てることがもともとの定義となっていますが、今ではテラリウム用の容器として間口の大きな水槽などが用いられることも多く、密閉された空間に限らず植物のレイアウトを楽しむ方が増えています。
また、砂漠に住む爬虫類を飼育するために、砂漠の世界を再現した砂と岩組のみのレイアウトもテラリウムと呼ぶ場合があります。
アクアテラリウム
1つの容器の中でアクアリウム(水の環境)とテラリウム(陸の環境)を再現したものをアクアテラリウムと呼びます。当然ですが、自然界では水辺と呼ばれる水の世界と陸の世界の境界線があります。その境界線の環境こそがアクアテラリウムなのです。
流木や岩などでより立体的で迫力のある組み方をしたり、水面で分けられた2つの別世界を楽しむことができたりと近年人気があるジャンルに思われますが、少し昔には「ハイドロテラリウム」という名前で同様の水陸が存在する水槽が流行ったそうです。
水槽のタイプも開放型のものが主流でより立体感を持たせたレイアウトが可能になっています。
マリンテラリウム
マリンテラリウムは半分陸・半分海水のレイアウトです。陸地には3cmよりも厚くサンゴ砂などを敷き詰め、海水が淀まないようにエアレーションや小型の水中ポンプを組み込み常に海水が循環するようにする必要があります。岩組みの代わりにライブロック、水草の代わりに海藻や海草などを植えます。
苔テラリウム
テラリウムの中でも苔がメインで組まれたものを特に苔テラリウムと呼びます。
苔玉ブームに端を発した苔ブーム。苔玉から進化したものが苔テラリウムと言っても過言ではありません。
苔は強い光は不要で、湿度さえしっかりと保つことができれば比較的育成が簡単。小さいグラス等でも育てられるということもあり、置き場所に困らず手軽に始められるのも人気の理由でしょう。
ビバリウム
ビバ/viva(生命の)+リウム(場所/空間)
テラリウムと混同されることも多いビバリウムですが、文字通り、限られた空間の中で生き物を育てることをメインに据えた環境を作り上げることがその定義となります。ですので広義の意味でアクアリウムもテラリウムもビバリウムに含まれていることになります。
ただ、環境再現を主目的に植物だけ・水草だけでも成り立つアクアリウム・テラリウムと違い、育てる生き物をそこにいれないとビバリウムとは呼ばれません。
日本では特に陸上の生き物(特に爬虫類・両生類)を飼育する環境が再現された水槽などのことを指すことが多くあります。
パルダリウム
パルダ/palud(沼地の)+リウム(場所/空間)
文字の定義としては沼地環境を再現した空間なのですが、イメージとしては多湿なテラリウムに近い感覚かと思います。ジャングルや熱帯林、湿地の再現。水がしたたり落ちていてちょっとべちょべちょしていたり霧のようなモヤがかかっていたりと湿度の高いテラリウムです。ただ、アクアテラリウムほど水中の環境は作らずあくまでも湿地程度の水場となります。
湿度を保つために、アクアテラリウムで用いられる開放的な水槽は用いず、密閉することができる水槽が用いられます。
生体種+リウム系
イモリウム
イモリ飼育を目的としたビバリウムレイアウトがイモリウムです。イモリが泳げる水場を作り、イモリが這い上がれるよう背面に水のしたたり落ちる傾斜のレイアウトであることがほとんどです。苔やシダ植物などで水場の雰囲気が演出されます。
カエルリウム
イモリウムと同様にカエル飼育を目的としたビバリウムレイアウトがカエリウムです。イモリウムとの大きな違いはカエルの性質によってレイアウトが変わってくるという事です。
イエアメガエルのようなツリーフロッグであればより縦型のレイアウトになりますし、ツノガエルのような地表性のカエルだとツノガエルが潜れる地面や隠れられるシェルターなどを設置しどちらかという平面的なレイアウトになります。また、トノサマガエルやカジカガエルのような半水棲のカエルの場合は密閉型の水槽でアクアテラリウムのような水陸レイアウトが求められます。
きのこリウム
森の中を散策中にキノコをポツンと見つけると森の妖精に出会ったかのような嬉しさがありますよね。そんな特別感をテラリウムで再現したのがきのこリウムです。ボトルアクアリウム・苔テラリウムから派生したきのこリウムのキノコは、エノキ・なめこ・ヒラタケ・マッシュルームなどが人気。どんどんきのこが育ってきたらもちろん食べてもいいのです。苔や流木を用いたレイアウトがきのこリウムの定番です。
カニリウム
カニを飼育するためのレイアウトがカニリウムです。ただしそのカニが淡水なのか海水なのかでだいぶ様相が異なってきます。
レッドデビルクラブやバンパイアクラブやモクズガニなどの淡水カニの場合、脱皮のための水場を用意したアクアテラリウムになります。一方、シオマネキなどの海水カニは半分「陸」半分「海水」のマリンテラリウムレイアウトを用意する必要があります。
ヤドカリウム
ここまでくると何でもいいんじゃない?という皆様の苦笑が遠くから聞こえますが、ヤドカリメインのレイアウト水槽をヤドカリウムと呼びます。ここでいうヤドカリはオカヤドカリを指します。
(完全水中で生活するヤドカリはマリンアクアリウムでの飼育となります)
完全陸生のオカヤドカリの住む環境を整えるレイアウトがヤドカリウムです。サンゴ砂と流木と貝殻などでヤドカリが住みやすくオシャレなレイアウトが楽しめます。
ビートリウム/カブトリウム
テラリウム水槽で昆虫を飼育するものをビートリウムといいます。惜しげもなく~リウムを出してきております。昆虫たちがうごめく森林を再現し、よりカブトムシなどの昆虫の生態が生き生きと観察できます。
底床は基本的に腐葉土、その上に落ち葉を堆積させ、産卵木をレイアウトすることで広葉樹林の森の風景の一部を切り取ります。
森の下草になるよう、シダ植物などの日陰でも育つ植物を植え込むとより臨場感がプラスされます。
ただ、見た目重視のレイアウトではカブトムシがマットに潜ろうと掘り返し、結構簡単にレイアウトを崩されてしまいます。しっかりと作り込むことが重要です。
その他リウム
ハーバリウム
ハーバル/herbal(香草の)+リウム(場所/空間)
ハーバリウムは最近インテリアとして注目を集めていますが、元々は「植物標本」を意味する単語です。花を小瓶に入れてオイル漬けにするというインテリアフラワーで、花本来の美しさを瑞々しい状態で楽しめるため非常に人気があります。
プラネタリウム
プラネット/planet(惑星の)+リウム(場所/空間)
急に天体の話というわけではなく、〇〇リウムという点では共通していますよね。プラネタリウムは閉ざされた人工的な空間で投影機によって星の運動を再現するものです。水の環境再現をアクアリウムとしたら、天体の再現がプラネタリウムなのです。
中国で観賞用金魚が生み出されたのが2000年以上前といわれ、それをアクアリウムの起源とするとしましょう。プラネタリウムの歴史も実は紀元前1世紀にまでさかのぼるといわれ、同じくらいの長い歴史を持っているのです。
身近にある自然環境を、自分が楽しむために人工的に再現する努力……いつの時代も人間は自然への畏怖と憧憬があるんだなとつくづく感じますね。
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