ビオトープという言葉は非常に広い意味を持った言葉です。
いろいろな説明を見て「どれが正しい意味なの⁉」と混乱してしまう方も少なくないと思います。
今回はビオトープという言葉の意味するものを解説していきます。
ビオトープとは
まず、ビオトープという言葉は非常に広い意味を持っています。
ビオトープ(Biotop)という言葉はドイツ語の名称なのですが、その由来となる言葉がギリシャ語のbios(生命)+topos(場所)で、「生物の住む場所」や「生息空間」といった意味なんです。
(※ちなみにBiotopeと表記されることがありますが、これは英語表記。読みはバイオトープ。ややこしい……。)
大元の意味では生態学の分野における「ある生物群集の生息空間」を指すそうです。
……なんだかざっくりとした感じで幅が広すぎますね。
単純に「生物の住む場所」ということであれば自然も人工の環境も含んでしまうので、これだけではなんともしっくりきません。
現在よく使われている意味としては、人工的に造られた生物の生息空間を指すことが多いです。
(※学術的な用途では必ずしも「人工的な環境のみを指すわけではない」というのが、またややこしいところなのですが。)
その点ではアクアリウムやテラリウムなども広い意味でビオトープの括りに入ります。
もう少し絞ると、特定の生物を飼うための仕組みというよりは「さまざまな動植物を組み合わせてひとつの生態系が成り立っていること」が条件になります。
ビバリウムやパルダリウム、コケリウムやヤモリウムなど植物を使った〇〇リウムと名前が付くものは全部広義のビオトープに入ってしまうということですね。
アクアリウムを例に出すと、水草水槽やアクアテラリウム、リーフタンクなどが仕組みとしては特に当てはまります。
ただ、室内に設置するアクアリウムやテラリウムは、外とのつながりのない閉鎖空間になることから厳密な意味での(いわゆる狭義の)ビオトープからは外れてしまいます。
これらは広義の中でもさらに広義の部分に入ると言っていいかもしれません
このようにビオトープという言葉は非常に広い意味や定義をもったものなのです。
「広義」のビオトープ
そして現在、アクアリウム業界において呼ばれるビオトープは「広義のビオトープ」に入ります。
広義のビオトープの意味するところのド真ん中と言えるのが、いわゆる「ウォーターガーデニング」「ガーデンビオトープ(ビオトープガーデンとも)」と言われるスタイルです。
園芸スイレンやハスをはじめとした好みの水辺植物を植え、改良メダカを入れて楽しむスタイルはビオトープはビオトープでも「広義のビオトープ」となります。
広義ビオトープの定義は非常にシンプルです。
そこに水辺と植物があること。
これだけで「ビオトープとしての機能」がその場所に生じます。
唯一の注意点は、「好みの動植物を入れた広義のビオトープ」は絶対に外部の水系とつなげないこと。
外の水系とつながってしまうと、ビオトープに入れた動植物が外来種として拡散しやすくなります。
広義のビオトープは「独立した水系(水場)」であることが重要と覚えてください。
広義のビオトープ設置における注意点
広義のビオトープは決して外部の川や水路などにつなげてはいけません。
「狭義」のビオトープ
さて、広義のビオトープが存在すれば狭義のビオトープも存在します。
狭義のビオトープとは環境保全が大きく関わっています。
その意味するところは、その土地に根差したネイティブな動植物を集めた生息環境となります。
集める動植物は同じ種類であっても別の地域から持ち込んだものは含みません。
なぜなら開発で失われたその土地本来の自然環境を保全することに目的があるからです。
※保全が目的であるため、人工的な再現ではなく元々そこにあった環境を活かしたものである場合もあります。
つまり広義のビオトープと狭義のビオトープは似ているようで全く定義の違うものになります。
同じ言葉であっても、その指す内容は完全な別ものというわけです。
これらを同じビオトープだからと混同して扱ってしまうと重大なトラブルにつながります。
その土地の動植物を保全している「狭義のビオトープ」に、別の地域からの動植物を持ち込むことは
ひどい破壊行為にあたるからです。
お住いの地域に狭義のビオトープ(たいていは特定の動植物の保全地となっています)がある場合、他地域の動植物を放したり植え込むことは絶対に行わないでください。
ビオトープが持つ「機能」
ビオトープには機能がたくさんあります。
それについてかいつまんで説明しましょう。
生物の集合場所:ビオトープに湿地が多い理由
ビオトープと聞いて水の入った鉢や池など湿地を模したものが思い浮かぶ方も多いかと思います。
それはなぜなのか?
きちんと理由があります。
それは湿地が生物の集まりやすい場所だからです。
どんな生物も、乾燥地に生息する生物であっても生きるためには水を必要とします。
スポット的に作られたビオトープは小さいものであっても貴重な水辺として機能し、設置からしばらく経つと周辺地域に生息する動物たちがやってくるようになります。
水生昆虫からカエルなどの水辺に住む両生類、そしてトカゲをはじめとした爬虫類、鳥なども集まり、さまざまな生物にとって憩いの場であると同時に餌場としても機能するようになっていくのです。
ビオトープ設置後によく見られるようになる面々
地域によってはこんな生きものたちがやってくることも・・・
設置1年目ではあまり変化がないことが多いですが、2年目以降はビオトープに集まってくる生物たちに変化が見られてくるようになるかと思います。
その変化を観察するのも楽しいですよ!
生態系ネットワークをつなぐ一要素
ビオトープはスポット的な役割だけでなく、線として機能する役割も担っています。
水辺を作ると周囲の環境からさまざまな生物たちが集まります。
集まってきた生物たちは一か所に定住するものもいますが、基本的にはいくつかの場所を渡り歩いて生活をしています。
そして宅地や市街地などにより分断されているようなところであっても生物の移動はあります。
鳥は空を飛べるので当然そういった場所でも移動は難しくないですが、地上を這う生物たちも盛んに行き来をするのです。
一部の陸生貝類や昆虫など、移動可能な環境条件と距離が限定されてしまうような種類は生息域が限られるだけでなく、どこにでも見られるような種類であっても地域ごとの隔たりが大きいため遺伝的に特殊化しているケースがよくあります。
全ての生物が人の生活空間を気軽に横切っていけるわけではないことを覚えておきましょう。
当然、生物によって移動可能な距離は変わるので、離れすぎている場所には移動できません。
ですが、ちょうどいい距離にビオトープがあると中継地点として機能するため生物が移動できるようになります。
この中継地点を、回廊を意味する「コリドー」と呼びます。
コリドーには連続してつながる「面的回廊」と「線的回廊」、スポット的な「飛び石型回廊」の3種類があります。
一般家庭に置くタイプのビオトープの機能は「飛び石型回廊としてのコリドー」となります。
このような都市開発によって分断された「生物の生息環境」をつなぎ、周辺に住む生物たちの往来を促進させて生物多様性を保持しようとする概念をエコロジカルネットワークと呼びます。
※エコロジカルネットワークという概念も広い意味を持つため、ここでは簡単な説明に留めます。
エコロジカルネットワークにおけるビオトープ(広義)の位置
コアエリア(核心地域) ⇒山や緑地など自然が多く残るエリア
コリドー (面的回廊) ⇒大規模河川とその河川敷など
コリドー (線的回廊) ⇒小川や用水路、並木道など
コリドー (飛び石型) ⇒小型のビオトープや市街の緑地公園
バッファーゾーン (緩衝地帯) ⇒人の生活空間と重なるエリア
として見てもらうとイメージしやすいかと思います。
※狭義のビオトープにはコアエリアとして機能するものもあります
このようにビオトープには分断された生物の生息環境をつなぐ役割もあるのです。
エコロジカルネットワークについてもっと詳しく知りたい方は、ビオトープ管理士試験のテキストも読んでみてくださいね。
まとめ
今回はビオトープという言葉の意味するところ、概念的なものをざっくりと解説してみました。
要点は次のとおりです。
- ビオトープという言葉自体はとても幅広い意味を含んだもの
- 学術的な用途とホビー的な用途では意味が違ってくるため
- 設置されるビオトープには「広義」と「狭義」の2種類に大きく分けられる
- 定義から見ると「広義」と「狭義」はほぼ別もの
- 「広義」はホビー的な自由さがあるゆるいくくり
- 「狭義」は保全に関わる厳密な定義を持つ
- 小さなビオトープでも周辺の生物にとって大きな役割を持つ
- 近辺の生物たちにとって水場や餌場(集合場所)になる
- 周辺地域の生態系を構成するエコロジカルネットワークの一部として機能する
正直なところ、ビオトープの概念を詳細かつ正確に説明するのはかなり難しい面があります。
それでも趣味としてのビオトープを楽しむ分には、この要点さえ知っていただければ基本的なところは大丈夫かと思います。
これらを押さえれば、一般家庭におけるビオトープの作り方や管理は難しいものではありません。
作り方や維持管理のノウハウなどについては別項で執筆中ですので、もう少しお待ちください。
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