はじめて水槽を立ち上げるときに基本的な手段として、パイロットフィッシュを利用した立ち上げ方法があります。
パイロットフィッシュを利用した水槽の立ち上げは、
- 立ち上げ初期に丈夫な生体を少数導入する
- 生体が排泄するアンモニアを元に、硝化細菌が定着する
このような理屈でバクテリアを定着させるテクニックとして、古くから用いられている手法です。
しかし、この手法のデメリットは「最終的に魚が残る」こと。
特に飼いたいわけでもない魚を飼育することになると、魚にとっても飼育者にとっても不幸です。
また、混泳や立ち上げ後の処理に困ることが予想される場合や、病気の持ち込みを警戒する場合、最初からパイロットフィッシュを採用しない 選択肢も考えられます。
そこで登場するのが、フィッシュレスサイクリング と呼ばれる立ち上げ手法です。
フィッシュレスサイクリングとは
パイロットフィッシュを導入せずにアンモニア源を添加してバクテリアを定着する手法です。
生体を入れずに試薬で亜硝酸塩の変化を毎日追うので、生き物の飼育というよりは化学実験をしているような気分になってくる手法です。
水槽が立ち上がるまで生体がまったくいない空の水槽を眺める期間が最短2週間~最長1ヶ月ほど続くので、人によって向き不向きはあると思います。
パイロットフィッシュの要点は、「毎日持続的に、少量のアンモニア添加が行える」点にあります。
つまりこの点に対して代替手段があれば、その方法でも同様にバクテリアの定着は促せるのです。
パイロットフィッシュを入れる直前、つまり水槽のセッティング自体は通常通り行います。
そのあとの対応がパイロットフィッシュ法とは異なります。
代替手段がいくつか知られています。
エサを腐敗させるパターン
持続的にアンモニア源を発生させればよいので、魚のエサの腐敗でも良いのです。
フィルターの中で徐々に腐敗させることで、水槽内にアンモニアを供給します。
腸内で働く善玉菌が配合されているタイプのエサを腐敗させて水槽を立ち上げると、手軽な上に安全性も高く、生体の導入後にそのまま与えられるので無駄がないでしょう。
この手法は、パイロットフィッシュの世話をする必要がない代わりに、腐敗していく見た目の悪さがデメリットといえます。
とはいえ状態の確認は必須であるため、腐敗の様子が確認できない外部式フィルター内で行うのはおすすめできません。
容易にフィルター内部の状況を確認しやすい、上部式フィルターに向いている手法といえます。
また、多くの餌にはリン酸塩も含まれています。
このためコケが発生しやすくなり、サンゴ水槽などのリン酸をシビアにコントロールするような水槽の立ち上げには向きません。
アンモニア水を添加するパターン
薬局などで購入できるアンモニア水も使えます。
残飯やフンなどの腐敗による生成物として生じるアンモニアを、最初から添加してしまおうという発想です。
いきなりアンモニアから添加を始めるため、今回紹介する方法の中では、最も早く定着が見込める手法です。
その代わり、取り扱い注意事項も多めです。
添加量は2Lに対して10%濃度のアンモニア水を1滴が目安です。
60cm水槽の場合は30滴前後となり、約1.5ml程度が目安となります。
このタイミングで市販のバクテリア剤を併用すると、より早い段階での定着が見込めます。
この手法はパイロットフィッシュの世話をする必要がない上に、添加量はごく少量なので悪臭も気になりません。
一方で、アンモニアを毎日添加しないといけない点はデメリットといえます。
また、アンモニア自体は生体にとって大変毒性が強い物質です。
アンモニア水こと水酸化アンモニウムは強い粘膜腐食性を持つため、添加中は一切生体を入れないでください。
ポイントは亜硝酸塩の発生状況を確認しながら、毎日微量を添加することです。
必要に応じて添加量も調整してください。
添加しすぎると、かえって立ち上げに時間がかかることもあります。
その他のパターン
アンモニアよりもさらに安全性が高く、pH調整の観点からも有効なアンモニア源として、硫化アンモニウム(硫安)や尿素も使う人もいるようです。
硫安や尿素は園芸用肥料として入手できます。
これらは大容量であるため特に大型水槽や、数十本にも及ぶ大量の水槽を一括管理する方から評価されている手法です。
特に硫安はpHを下げる性質が着目点です。
強アルカリであるアンモニア単体のpHを強酸である硫酸イオンで中和することにより、アンモニア単体よりも安全性が高く取り扱いやすくなっているようです。
本来の用途となる農業方面では、アンモニア単体よりも環境負荷の低いアンモニア態窒素として利用されています。
アンモニア水に比べると取り扱い上の注意点が少なく安全性も高いので、熱帯魚水槽をフィッシュレスサイクリングで立ち上げる場合には最良のアンモニア源とも言われるようです。
アンモニア源の特性一覧
アンモニア源にはそれぞれ次のような性質があります。
使用環境にあったものを選ぶと良いでしょう。
エサ | アンモニア水 | 硫化アンモニウム (硫安) | 尿素 | |
---|---|---|---|---|
定着スピード | 遅い | 速い | やや速い | やや遅い |
安全性 | ◎ | × | 〇 | 〇 |
備考 | 外部式フィルターに向かない | 添加中は生体導入不可 毒性有、取扱注意 | 肥料なので入手は大容量 固形で保存しやすい | 肥料なので入手は大容量 固形で保存しやすい |
水槽サイズ | 小型水槽向け | 小型水槽向け | 大型水槽向け | 大型水槽向け |
pHへの影響 | すぐには変化なし | アルカリ性に傾ける | 酸性に傾ける | ほぼ変化なし |
フィッシュレスサイクリングの必要性
結論からいってしまうと、水槽の立ち上げにおいて必須ではありません。
ただ、導入したほうが短期間でバクテリアが定着しやすくなります。
必ずしもフィッシュレスサイクリングを行わなくとも、ろ過バクテリアの定着はいずれ完了しますが時間がかかります。
ポピュラー種には不要かも
元々水質悪化に強く丈夫な魚種の場合、極論を言えばフィッシュレスサイクリングはいらないかもしれません。
バクテリアの定着には、それほど神経を使わなくても飼育できることが多いです。
高額・レア種にチャレンジするならぜひ
高額な魚種や、入手機会の限られる貴重な魚種の飼育に挑戦する場合に有効といえるでしょう。
これらの魚種を飼育する際は、念入りに水つくりを準備した上で導入したいところです。
少しでもバクテリアの定着を早めたいとき、活躍するかもしれません。
ろ材にもこだわろう
フィッシュレスサイクリングを用いたバクテリアの定着を図るのであれば、ろ材にもこだわりましょう。
具体的にはバクテリアの定着に優れた多孔質のろ材を多めに採用することで、ろ過の機能を最大限に活かすことができます。
バクテリアの定着確認は必須
フィッシュレスサイクリングを用いた立ち上げを行うのであれば、バクテリアの定着確認は必須です。
最低でも亜硝酸検査試薬はないと、正しく進行しているかの状況確認ができません。
完全にフィッシュレスサイクリング法を使いこなすには、それだけでなくアンモニアと硝酸塩の検査試薬も必要です。
▼必須
▼測定推奨
バクテリア定着までの流れ
- STEP1水槽立ち上げ
立ち上げ完了時点でアンモニア源の添加を行います。
- STEP2アンモニアの検出
アンモニア源としてアンモニア水を添加している場合は即座に検出されます。
それ以外を添加している場合は、徐々に検出されるようになります。
試薬に付属の比色紙で値を確認し、もし危険域を超える値であったとしても生体が入っていないため、水換えは不要です。 - STEP3亜硝酸の検出
アンモニアが検出されてしばらくすると、亜硝酸も検出され始めます。
- STEP4アンモニアの減少と亜硝酸の増加
アンモニアが検出されて1週間程度経過すると、アンモニアが減少し始めます。
一方、亜硝酸は増加を見せます。 - STEP5亜硝酸の大幅増加
アンモニアがほとんど検出されなくなり、亜硝酸が大幅に増加します。
これはアンモニアを分解するバクテリアが定着した証拠と言えます。
もし危険域を超える値であっても水換えは不要です。 - STEP6亜硝酸の急激な減少
水槽を立ち上げてしばらく経過すると、亜硝酸が急激な減少を見せます。
これは亜硝酸を分解するバクテリアが定着した証拠と言えます。 - STEP7アンモニア・亜硝酸共に検出0に
バクテリアが完全に定着すると、アンモニア・亜硝酸共に検出されなくなります。
これで晴れてろ過バクテリアの定着が完了しました。
生体の導入が可能です。
一度増加した亜硝酸の減少が確認できれば、バクテリアの定着が完了したと判断できます。
しかし、この状態でいきなり多数の生体を追加してはいけません。
いきなり大量に魚を追加すると、急激に増えたアンモニア量に対しバクテリアのキャパシティオーバーを引き起こします。
その結果、せっかくできあがったろ過バクテリアのバランスが崩壊してしまいます。
バクテリアの定着が完了しても、生体の追加は少数を様子見ながら複数回に分けて導入、が鉄則です。
▼こちらも参考 バクテリア定着までの最短ルート
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