ハチェットフィッシュの世界へようこそ。
水槽の上層を小さな胸ビレを小刻みにパタパタ動かしながら泳ぐ姿は、まさに「かわいい」という言葉がぴったり。体型が斧(hatchet)に似ていることからその名が付けられましたが、名前とは裏腹に非常にコミカルな動きで見る人を癒してくれます。
また、ハチェットフィッシュの面白い特徴として、Carnegiella属に属する種類(マーブル、マーサ、グラスハチェット)は、カラシンの仲間でありながらカラシン特有の脂ビレを持たない点が挙げられます。
ハチェットフィッシュの生物学的データ
分類 | カラシン目ガステロペレクス科 |
体長 | 3~10cm程度 ※大半の種は5cm前後。 |
食性 | 雑食 |
主な原産地 | 南米 アマゾン川 |
ハチェットフィッシュはアマゾン川に幅広く生息しており、ネオンテトラやカージナルテトラと同じカラシンの仲間です。ほとんどがワイルド個体で入荷してきます。群れる性質から、水槽内では複数匹飼育したほうが落ち着きます。必ずしも同種である必要はなく、体格が同程度のハチェットフィッシュであれば比較的どんな種類とでも群れを作るようです。臆病な性格のため、ケンカすることは滅多になく、協調性が良いのもハチェットフィッシュの魅力です。
輸入直後は慎重に
ハチェットフィッシュの共通認識として、流通する種のほとんどがワイルド個体のため、他のカラシン(特に東南ブリード個体)に比べて弱いです。特に輸入直後の個体は弱っていることが多く、独特の体型上、輸送中のスレによりダメージを受けていることが多いです。また、しっかり状態が上がって太っているか見極めが難しい魚種でもあります。
チャームで扱ったことのある全種を紹介
シルバーハチェット
学名:Gasteropelecus sternicla
別名:リバーハチェット
ペルー、ガイアナ、ベネズエラ原産のハチェットの仲間です。ハチェットの中でも古くから知られ、最もポピュラーな種です。本種は銀色の体色にライン状の模様が特徴的です。よく似たトラコカラックス・ハチェットとは背ビレに黒い模様を持たない点や、銀の体色の輝きが弱い点で判別されます。
マーブル・ハチェット
学名:Carnegiella strigata
アマゾン川、カクエタ川原産のハチェットの仲間です。古くから知られるハチェットの仲間で、シルバーの体色が多いハチェットの中でも個性的な不規則なまだら模様を持ちます。産地によって腹部の模様の異なるタイプが存在しています。模様の差により亜種に分けられていましたが、現在ではシノニム(同種)とされているようです。主に流通するのはコロンビア便のタイプで、ブラジル便での入荷は少ないです。
マーサ・ハチェット
学名:Carnegiella marthae
別名:ブラックウィング・ハチェット
元々はマーブルハチェットの一亜種として知られていました。本種はハチェットの中でもやや小型で銀色の体色が特徴的です。消灯時には胸ビレが黒くなることからブラックウィング・ハチェットとも呼ばれます。腹部の鱗片が黒く縁取られる亜種も知られています。
ちなみに属名のCarnegiella属は、Margaret Carnegie氏(女史)に敬意を表してつけられたとされています。小種名の『マーサ』は特にこの魚を気に入っていた記載者の妻の名前とのこと。属名、小種名がともに女性に由来するという、女性に愛された種です。また、脂ビレが特徴のカラシンの仲間でありながら、これがないという矛盾した特徴を持っています。
グラス・ハチェット
学名:Carnegiella myersi
別名:ピグミー・ハチェット
ペルー原産のハチェットの仲間です。ハチェット類の中でも最小種で、以前は混じりでのみ見られた種です。特に小さいことから小型水槽に泳がせるなら一番オススメの種類です。模様はマーサハチェットと似ていますが、両種を並べると明らかに本種は透明感があります。
レヴィス・ハチェット
学名:Gasteropelecus levis
別名:シルバーハチェット
ガステロペレクス・レヴィス
スポッテッドシルバーハチェット
約6cmとハチェットの中では比較的大きくなる、ブラジル、アマゾン川下流域原産のハチェットの仲間です。以前は混じりなどでわずかに知られるだけの種でしたが、現在では商業的なブリードに成功した唯一のハチェットとして流通も多くなっています。本種はシルバーハチェットによく似た外見で、体側には細かなスポット状の模様を持ちます。海外では本種をシルバーハチェットとすることが多く、国内でシルバーハチェットと呼ばれる種はリバーハチェットの名で呼ばれています。大型の水槽で群泳させると迫力ある姿を見ることができます。
エロンガータ・ハチェット
学名:Triportheus elongatus
別名:カタリナハチェット
カタリナバタフライテトラ
約10cmになるペルー原産の中型のハチェットです。トリポテウス属の仲間はカタリナ・ハチェットやエロンガータ・ハチェットと呼ばれる種を含むグループで、小型のハチェットのように発達した胸ビレと扁平した体、大きく張り出した腹部という特徴を持ちます。サイズがやや大きくなり、現地では食用魚としてポピュラーです。幼魚は体側に縞模様や黒や黄に染まる美しい胸ビレを持つことから、観賞魚としても時折輸入されています。
トリポテウス・パラナエンシス
学名:Triportheus paranaensis?
Triportheus angulatus?
ブラジル、パンタナル、ラプラタ川、パラナ川、パラグアイ川原産の中型のハチェットです。本種はトリポテウス・パラナエンシスのインボイスで輸入され、体側背部はメタリックグリーンの輝きを持ち、黒く縁取られたウロコが整然と並んだライン状の模様を持ちます。外見の特徴からはトリポテウス・アンギュラータスとして知られる種によく似ています。飼育は容易で中型カラシンの中でも温和で混泳向きの種です。中型ハチェットの仲間は小型種に比べマイナーでいくつかの種が混同されますが、その中でも本種は以前からパラナエンシスのインボイスで知られています。流通は多くありませんが、ペルー便で流通するエロンガータスハチェットやカタリナハチェットと明確に区別できます。
ハチェットフィッシュ飼育の基本
基本的には南米産カラシンと同等の飼育条件で良いです。ただ、ハチェット特有の注意点もあるのでお見逃しなく。
水槽
ハチェットフィッシュの飼育において、基本的に水槽サイズは不問です。標準的なサイズは約3~5cm。
上層を遊泳域としているので、単体での飼育というよりは水草レイアウト水槽への導入や他の熱帯魚との混泳を考えている方も多いでしょう。その場合、45cm・60cm以上の水槽で始めるのが良いでしょう。また、飛び出し事故が起こりやすい種なので水槽サイズに合ったフタの用意が必須です。
フィルター、照明が付いたセットなら、より安心して始めることができますね。
フィルター
水草レイアウト水槽に導入するのであれば、添加したCO2を逃がしにくい外部式フィルターが良いです。ただし、ハチェットフィッシュは強い水流を好みません。排水口に水流を穏やかにできるパーツを付けるなどして工夫してあげてください。
排水口の大きさを広げて水流を穏やかにします。
排水口の向きを任意で変更できます。上に向けたり、ガラス面に水流を向ければ水流を穏やかにすることができます。
水流を弱める際は止水域ができないように注意しましょう。止水域ができてしまうと、酸素がうまく供給されず水質悪化や病気の原因になってしまいます。
水質
ハチェットフィッシュは基本的に、水質についてはさほど気にしなくても、基本的な熱帯魚の飼育に適した弱酸性(5.0~7.0)になっていれば問題はありません。
ただし、コロンビア便で来るマーブルハチェットやマーサハチェットは生息地の環境の観点から、pHがやや低めの水質を好む傾向があります。
また、ハチェットフィッシュは全体的に輸入直後や導入直後は特に状態を崩しやすいので慎重に扱いましょう。
底床
ハチェットフィッシュの飼育は一般的なカラシンの飼育に準ずること、水草レイアウト水槽にも導入することを考えると、pHを弱酸性に傾ける作用があるソイルが良いでしょう。
餌
ハチェットフィッシュのエサ選びで注意したい点は、「エサが浮いている時間がある程度あるか」です。生態上、沈んでいく餌には興味を示さなくなります。かと言って、ずっと浮いている餌だと中~低層域の生き物にエサが行き渡りません。そのことを考えると次の製品をオススメします。
低層の生き物は上・中層の生き物の食べ残しだけでは餓死してしまいます。低層域を遊泳層とする生き物を混泳させている場合は定期的に沈下性の餌を給餌するように心がけましょう。
混泳
ハチェットフィッシュが口に入らないサイズの魚・遊泳層が被らない温和な魚であれば、ほとんどの種類と混泳可能です。
性質も温和、水質にも寛容なのでさまざまな組み合わせが楽しめます。
注意したい点
ハチェットフィッシュを飼育するにあたっていくつかの注意点があります。
飛び出し事故
このグループで一番多いと言っても過言ではない事故です。朝起きたら床に干からびた魚が……なんていうことにならないよう、水槽サイズの合ったフタを付けることをオススメします。
飼育数
ハチェットフィッシュは基本的に臆病な魚です。1匹で飼育するよりは4~5匹程度で飼育する方が落ち着く傾向があります。また、群泳させることでまるで飛行機編隊のようなかっこいい動きをする様子も見られますよ。
隠れやすい場所の用意
前述しましたが、ハチェットフィッシュは臆病な性格です。水上からの外敵から身を隠すために水槽外に飛び出すようなレイアウトをすると、その陰に好んで集まる習性があります。
ハチェットフィッシュの繁殖
ハチェットフィッシュはブリード方法が確立されておらず、ほとんどが南米から入荷されたワイルドです。飼育下での繁殖は難しいでしょう。
おまけ
ハチェットの仲間(カラシン)はアジアには生息していません。アジアでは一部のコイの仲間に、ハチェットのように大きく発達した胸ビレと扁平した体形を持った魚が生息しています。ハチェットと同様に水域上層での生活に適した進化をしたと考えられています。全く別の地域に生息する異なるグループが、似たような進化をする収斂進化の一つです。その仲間たちを紹介していきます。
ネオン・ハチェットバルブ
学名:Chela cachius
別名:ネオンブルー・ハチェットバルブ
パキスタン、インド原産のケラの仲間です。小型カラシンのハチェットのような体型を持ち、よく発達した尻ビレ、胸ビレと伸長する腹ビレが特徴的です。ユニークな体型以外は地味な体色に見えますが、光の当たり方により美しいブルーの発色を見せます。飼育は容易で、同種間では若干小競り合いをするものの、同程度のサイズの魚なら混泳も可能です。
ネオン・ハチェットバルブと同じケラの仲間
ケラ・ダディブルジョリィ
学名:Chela dadiburjori
Laubuca dadiburjori
別名:ダディブルジョリィハチェットバルブ
インド原産の小型のコイ科の魚です。ダディブルジョリィ・ハチェットバルブの名でも知られ、青のラインとスポットが美しい魚です。水槽の上層を元気に泳ぎ、小型で美しいことから、水草水槽での群泳がオススメ。体側のスポットの数は個体差があって観察していると面白いですよ。
インディアングラス・ハチェットバルブ
学名:Laubuca varuna
Chela laubuca
別名:インディアンハチェットバルブ
インド原産のダニオやバリリウスのような模様を持ったケラの仲間です。ダニオやラスボラが好きな人であれば『うん、アジアのコイの仲間』と感じることができる模様です。派手さはありませんが清涼感があります。こちらも水草水槽での群泳がオススメです。
グラス・バルブ
学名:Parachela oxygastroides
別名:ナイフバルブ
タイ、インドネシア原産のコイ仲間です。透き通った体が特徴的で、扁平した体型と大きな胸ビレはケラ属と近縁であることがうかがえます。ハチェットのようなユニークにな見た目に透明な体色という『ユニーク×ユニーク』でお腹いっぱいの種。個性的な見た目で輸入量が多くないので、狙っているマニアは喉から手が出るほど欲しい種ではないでしょうか?やや大きくなるので、小型水槽なら数匹で十分存在感がります。本種自体は地味なので派手な魚との組み合わせると良いでしょう。
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