オリジアスの魅力
オリジアスの世界へようこそ。
オリジアスとは、日本のメダカと同じメダカ属(Oryzias属)に分類される卵生メダカの一グループです。
わかりやすく言えば“海外版のメダカ”です。
日本のメダカは「幹之」や「楊貴妃」などのさまざまな改良品種が作出されており、大変人気を博しています。
一方で、海外のオリジアス類はそれに近しくもまた異なる独自の魅力を持っています。
熱帯魚としてはまだまだマイナーな存在ですが、生態や飼育方法は日本のメダカとほとんど同じです。
主に群れで水面を泳ぎ、卵は腹にぶら下げ、浮草の根に付着させる形で産み付けます。
水温以外は日本のメダカと要求する条件がほぼ変わらないため、飼育しやすさも魅力です。
流通量は決して多いとは言えないものの、水草水槽などでも活躍できるポテンシャルを秘めたグループとも言えるでしょう。
改良メダカとはまた異なる奥深さを持つ、アジアで独特な進化を遂げたオリジアスの世界へ。
貴方を誘いましょう。
オリジアスとは
オリジアスとは、ダツ目メダカ属に属する魚類の総称です。
近年、大人気の日本のメダカもこのグループに属する魚種であり、つまりオリジアスの一種です。
非常に近縁な関係にあるだけに、日本のメダカとその生態は瓜二つです。
Oryziasという学名はイネの学名Oryzaに由来しており、水田と関連の深い魚種であることを示しています。
オリジアス類の共通点として主に水面を泳ぎ、メスが卵を付けたまま泳ぎ回り、浮草などの根に付着させる習性があります。
このため、繁殖に関しては日本のメダカのノウハウがそのまま流用できます。
オリジアスの魅力
日本のメダカと似て非なる
日本のメダカと同属だけあって、パッと見の顔つきや体型はよく似ています。
しかし、細部に日本のメダカとは異なる部分が見られ、この微妙な相違点が楽しめるポイントといえるでしょう。
メダカから熱帯魚飼育のきっかけに
オリジアス類の入荷は多いとは言えず、熱帯魚全体で見ればマイナーな存在です。
しかし、日本のメダカと同属だけあって飼育方法はかなり似通っています。
室内で飼育する場合は、むしろ日本のメダカよりも丈夫で飼育しやすいです。
ヒーターが必要な他は、ほぼ同じです。
メダカの飼育経験をお持ちの方には、最もチャレンジしやすい熱帯魚といえるかもしれません。
主なオリジアス
いずれも入荷は多いとは言えませんが、比較的入荷のある種を主にピックアップして紹介します。
オリジアス・ウォウォラエ
学名:Oryzias woworae?
Oryzias sp.“Fountain Blue”
インドネシア、ムナ島原産のメダカです。
体側のメタリックブルーはさらによく目立ち、個体によっては前半部がシルバーにも見える発色を持ちます。
また、オスの尾ビレのツインバー、オレンジの胸ビレはさらに鮮やかに発色し、喉元まで赤く染まります。
メスはオスに比べるとやや地味な色彩となりますが、それでもオスに似た発色が見られます。
ヒレの付け根などは、メスの場合オレンジに発色します。
本種は2010年に初輸入され、当時は一躍話題になりました。
人気のため比較的流通も多く、入手しやすい種類です。
飼育は日本のメダカなどと同様で、導入時の水質変化に注意すれば容易です。
インド・メダカ
学名:Oryzias melastigma
インド原産のメダカです。
若干寸詰まりな体型がかわいらしく、オスの尻ビレは大きくなります。
派手さこそないものの、水草水槽では愛嬌のある姿で楽しませてくれます。
飼育は容易で、繁殖も日本のメダカ同様の方法で行なえます。
比較的流通は多く、入手しやすい種類です。
ジャワ・メダカ
学名:Oryzias javanicus
インドネシア、マレーシア、タイ原産のメダカです。
若干寸詰まりな体型がかわいらしく、オスの尻ビレは大きくなります。
本種は東南アジアの大陸側から島にいたるまで広く分布し、汽水域を通じて生息域を広げたといわれています。
こちらも決して派手ではありませんが、水草水槽では愛嬌のある姿で楽しませてくれます。
飼育は容易で、繁殖も日本のメダカ同様の方法で行なえます。
本種は塩分を好むらしく、飼育初期には若干の塩分があったほうが良いようです。
しかし環境に慣れて落ち着けば、純淡水でも全く問題ありません。
比較的流通は多く、入手しやすい種類です。
インドメダカと混同して流通することがあるようですが、詳細は不明です。
オリジアス・メコネンシス
学名:Oryzias mekongensis
タイ、メコン水系原産のメダカです。
尾ビレの上下端にオレンジの模様が特徴的な種です。
かつて単独での輸入はまれで、他の魚の混じりとして極僅かに流通が見られる程度でした。
近年では単独での輸入も増えつつあるようです。
飼育は容易ですが、最大でも全長2cmと非常に小型の種となります。
導入時とエサ、混泳魚に注意が必要です。
また、オリジアスとしては珍しく弱酸性の環境を好みます。
トラブルを避けるためには、単独飼育が理想でしょう。
タイ・メダカ
学名:Oryzias minutillus
タイ、チャオプラヤ水系原産のメダカの仲間です。
透明感のあるボディに、体側と目に青い輝きを持つ美しい小型種です。
以前はミクロラスボラ・ナナや、ボララス・ウロフタルモイデスに混じることが多く、単独での入荷はごくわずかでした。
近年では単独での入荷も増えつつあるようです。
飼育は容易ですが、本種も非常に小型の種のためエサに注意が必要です。
可能であれば、単独飼育が理想でしょう。
セレベス・メダカ
学名:Oryzias celebensis
インドネシア、スラウェシ島(セレベス島)原産のメダカです。
黄色い体色と尾ビレの黄色い縁取りが美しい種で、体の後半部には紺色のラインが入ります。
オリジアスの仲間としてはやや大型で、体長5cm程度に成長します。
美しい色彩は水草レイアウト水槽にもよく似合います。
飼育は容易で、性質も温和なので混泳にも向いています。
以前はある程度の流通が見られる種でしたが、年々流通が少なくなっているようです。
希少なオリジアス
オリジアスの仲間はインドネシアのスラウェシ島で多様な分化を遂げているといわれています。
チャームに過去入荷したことのある、珍しい3種を紹介します。
スラウェシ島のオリジアスはせっかく入荷が来ても輸入状態が悪いことが多く、販売までに至れないこともあるのが実情です。
さらに、入荷自体のタイミングも全く読めません。
もし運良く入手できた方は、大事に飼育してくださいね。
オリジアス・ニグリマス
学名:Oryzias nigrimas
スラウェシ島、ポソ湖原産のメダカです。
普段は濃いグレーの体色をしていますが、「黒い雄」を意味する学名の通り、オスは婚姻色や闘争時に全身が漆黒に染まる種です。
輸入時の着状態が悪いことから難種としても知られています。
状態を立て直すのが最難関といえるでしょう。
一度落ち着いた個体であれば、スレや水質の変化に弱い点に注意すれば飼育は比較的容易です。
オリジアス・マタネンシス
学名:Oryzias matanensis
スラウェシ島、マタノ湖原産のメダカです。
スラウェシ島にのみ生息する種で黄色い体色が特徴的な種です。他のオリジアスに比べサイズが大きく、体高のある独特の体型を持ちます。
体側にはいくつかの暗色班を持ち、さながらヤマメなど渓流魚のパーマークのようです。
オスはメスに比べヒレが伸長し、尾ビレや尻ビレは黒くなります。
飼育は難しく、スレや水質の変化に弱い部分を見せます。
オリジアス・プロフンディコラ
学名:Oryzias profundicola
スラウェシ島、トゥティ湖原産のメダカです。
スラウェシ島にのみ生息する種で黄色い体色が特徴的な種です。他のオリジアスに比べサイズが大きく、体高のある独特の体型を持ちます。
マタネンシスとは異なり、暗色斑は目立たないようです。
オスはメスに比べ尾ビレや尻ビレは黒くなり、メスはオスに比べ全体的に黄色くなります。
飼育は難しく、スレや水質の変化に弱い部分を見せます。
▼こちらも参考 スラウェシ島は淡水エビも多様な分化が見られ、興味深い産地です。
オリジアス飼育の基本
海外版のメダカという位置づけにある魚種なので、日本のメダカと飼育はほぼ変わりません。
ただし、熱帯性なのでヒーターが必要になる点は異なります。
水温に関しては、26℃前後になるよう加温してください。
オリジアスの飼育に関しては、熱帯魚に飼育に最低限必要な設備が整っていれば問題ありません。
屋内で飼育する場合、太陽光の要求が高くない分、日本のメダカよりも飼育が容易です。
日本のメダカ同様、水質も幅広い範囲に適応します。
それどころか塩分耐性も高く、淡水域から沿岸域まで進出する種もいるようです。
水槽の選択
特に選びません。
フィルターが設置できるものであれば、どのサイズでもOKです。
群れる習性があるので、最低でも5匹以上で飼育するのが良いでしょう。
フィルター、照明が付いたセットなら、より安心して始めることができますね。
フィルターの選択
オリジアスのみを飼育するだけなら特に選びません。
どのフィルターでも飼育可能です。
コスト感を重視するのであれば、投げ込み式フィルターで十分でしょう。
他の魚種と混泳させる場合は、混泳相手の要求に合わせると良いでしょう。
底床の選択
基本的には、特に選びません。
どちらかといえば弱アルカリ性を好む種が多く、大磯砂や砂がおすすめです。
日本のメダカ同様に適応力が極めて高いので、大抵の環境には適応できます。
他に混泳魚がいる場合、そちらの好みに合わせられます。
水草水槽に群泳させたい場合は、ソイルを使用しても問題ありません。
サンゴ砂も使えますが、アルカリに傾きすぎる可能性があるのでご使用の際はご注意ください。
繁殖を主目的にするのであれば、大磯砂がベストです。
餌
顆粒またはフレークの人工飼料が良いでしょう。どちらを与えてもよく食べます。
水面を泳ぎ回るので浮上性がおすすめです。
多くの種は餌付けに苦労せず、人工飼料を与えればすんなり食べてくれる個体がほとんどです。
めったにありませんが、どうしても食べてくれない場合には冷凍赤虫が有効です。
繁殖を狙う場合は、こちらも積極的に与えると良いでしょう。
混泳
基本的に温和で攻撃性はないため、混泳はさせやすいグループです。
表層を群れで遊泳し、低層魚にはほとんど干渉しません。
水質の適応範囲も広く、混泳相手の好みに合わせることができます。
混泳のしやすさは、テトラやラスボラ等の小型魚とほぼ同等と考えて問題ありません。
オリジアスの繁殖
日本のメダカの近縁種だけあって繁殖方法もほぼ同様です。
屋内で繁殖させる場合は、シーズンに左右されない分、日本のメダカよりもむしろ簡単です。
繁殖を主目的とする場合は、他魚種とは混泳させずに目的の種単独で飼育しましょう。
成熟したオスメスを複数匹で飼育していれば、日本のメダカ同様に自然に卵をぶら下げる様子が見られます。これを浮草や水草に付着させます。
屋内で飼育する場合、浮草は少々使いにくいです。
マツモやカボンバなどの有茎草を用いると良いでしょう。
繁殖に特化する場合は、メダカ用の人工産卵床が使えます。
▼こちらも参考 メダカの産卵床
産卵させるまでの手順
- 熱帯魚の基本的な飼育設備を整えます。
- 浮草を浮かべるか、有茎草を植え込みます。
- 繁殖させたいオリジアスのペアを入手します。
- 冷凍赤虫を中心に、栄養価の高いエサを多めに与えます。
- 調子良く飼育を続けると、メスが卵をお腹にぶら下げるようになります。
- しばらくするとメスが水草に卵を産み付けます。
- そのままにしても卵はふ化します。回収したほうがその後の生残率は良くなります。
産卵後の育成
ふ化した稚魚にはブラインシュリンプの幼生をふ化させて与えます。
ある程度育ってきたら、親に与えている人工飼料を小さくすり潰したものも食べられるようになります。
オリジアスの病気
白点病や水カビ病、尾腐れ病など、よくある病気は下記で解説しています。
オリジアス類は飼育環境がよほど悪くない限り、めったに病気にはかかりません。
極端に過密状態であったり、他魚との相性が悪かったり、悪化した水質を長期間放置すると発生することがあります。
一般的な熱帯魚に比べ、病気に対しては抵抗力が強いようです。
ただし、物理的な傷にはめっぽう弱いです。
スレには弱く移動や水換えの際に網ですくう際は慎重になったほうが良いでしょう。
できるだけ目の細かいアミを使うか、水ごと掬うとよいです。
放流厳禁!
ここまでで紹介した通り、オリジアス類は日本のメダカの近縁種です。
日本のメダカと同属なのでもしかすると交雑ができるかもしれませんが、詳細は不明です。
このグループは流通し始めてから結構な年数がたちますが、日本のメダカとの交雑品種はいまだに聞かれないため、不可能かまたは困難なのかもしれません。
今のところ交雑種の報告はないようですが、もし万が一野外に放流された場合、野生のメダカとの交雑が発生してしまう危険性があります。
交雑の発生有無に関係なく、どの魚種にもいえることですが、日本のメダカに近縁であるオリジアスの場合はそのリスクが他の魚種よりも高いといえます。一層の注意が必要です。
▼こちらも参考 放流行為は厳禁です!!!
卵生メダカだけど、卵生メダカじゃない
分類に関するちょっとマニアックな話です。
またオリジアスは観賞魚において「卵生メダカ」の一グループとして括られますが、実はランプアイやそのほかの卵生メダカとは遠縁と考えられています。
グッピーなどの「卵胎生メダカ」とも遠縁です。
「卵生メダカ」「卵胎生メダカ」というグループ分けは、その昔オリジアスもグッピーもランプアイも「メダカ目」として分類されていた時代の名残なのです。
当初は、メダカ目の代表種はオリジアス属に含まれる、日本のメダカでした。
その後研究が進んだ結果、オリジアス属はグッピーやランプアイなどに比べると遠縁ということが判明しました。見た目は似ていましたが、起源が違ったようなのです。
異なるグループで形態や生態が似ることを「収斂進化」といい、グッピーやランプアイはカダヤシ系の共通祖先に起源、メダカはダツ系の共通祖先に起源を持ち、それぞれ似たような形態・生態を獲得したようです。
グッピーやランプアイなどよりも、どちらかといえばダツに近縁ということが判明した結果、オリジアス属ごとダツ目に移動、編入されました。
ダツ目というと「ダツ」「トビウオ」「サンマ」などが属しており、有名な魚種の多くは海産の食用魚が主となります。
熱帯魚ではデルモゲニー、ハーフビーク(ヘミランフォドン)、ニードルガーの仲間が該当します。
そうなると元々「メダカ目」として分類されていた代表種のメダカが、「メダカ目」から属ごといなくなってしまいました。
これでは「メダカ目」という呼称はふさわしくないため、元々の「メダカ目」は「カダヤシ目」へと現在は呼称が変更されています。
「卵生メダカ」「卵胎生メダカ」という括りは、この時代の名残なのです。
以上を踏まえるとメダカはあくまでもメダカであり、ランプアイなどは「卵生カダヤシ」、グッピーなどは「卵胎生カダヤシ」といった表現に変更したほうが、現在の分類学的な実態を表した表現といえるでしょう。(この表現で呼ばれることはまずありませんが……。)
オリジアスが属する「ダツ目」、グッピーなどの「卵胎生メダカ」とランプアイなどの「卵生メダカ」が属する「カダヤシ目」、レインボーフィッシュなどが属する「トウゴロウイワシ目」の3グループは、他の魚種にくらべると近縁関係にあるようです。
オリジアス用語集
纏絡糸(てんらくし)・・・メダカが卵を水草などの基質に付着させるために用いる、粘着性のある糸です。
粘着力は強力ですが、必ずしもすべての卵が基質に付着できるとは限らないようです。
水槽の底に卵を見かけたら、回収しておきましょう。
海産起源魚・・・祖先種が海水魚だった淡水魚を指しています。
元々祖先は海水魚だったものが河川など淡水環境へ進出・適応する形で進化を遂げることにより、淡水魚化するケースはさまざまな魚種で少なからず知られます。
日本のメダカも含め、オリジアスの祖先はダツ類と近縁であったようです。
以前はグッピーやプラティなどが属するカダヤシ目と近縁と考えられていましたが、現在では遠縁であると考えられています。
その名残か、オリジアス類は淡水魚としては極端に塩分耐性が高いことが知られています。
少なくとも日本のメダカの場合、順応させればしばらくの間海水でも問題なく生きられるようです。
他にもジャワメダカは東南アジアの大陸から離島に至るまで広く分布しており、汽水域を通じて生息域を広げたのではないかといわれています。
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