卵胎生メダカってよく聞くけれど……
「卵胎生メダカ」
熱帯魚の分類で当たり前のように項目になっているこの種族。初めて見る人は恐らくナニコレと戸惑うでことしょう。
ちょっと待って。アクアリウムってこんなコアな話なんだ~?!すごい~、怖い~とかつて私も怯えたものです。しかし怯えるなかれ、義務教育で習った気がする「卵胎生」。中学生の頃の理科の記憶を辿ってみましょう。
卵生・胎生・卵胎生
記憶のおさらいです。
生物の生殖方法には親個体と異なった染色体となる有性生殖と、親の染色体をそのまま受け継ぐ無性生殖があります。生活環(個体が発生をしてから次世代の個体が発生をするまでのライフサイクル)の中で有性生殖と無性生殖両方を行う生き物もいますし、有性生殖または無性生殖のみで増えていく生き物もいます。
そんな有性生殖の繁殖様式は大きく3つに分類されます。
卵生:体外に卵を産んで、卵から子がかえる生物
胎生:子が体内で育ってから体外に出てくる生物
卵胎生:受精後、卵が体外に出ず、体内で卵をかえしてから子が体外に出てくる生物
…そろそろ中学生の理科の記憶を思い出してきましたか?
魚類は基本卵生、でも卵胎生もいる
一般的に動物が一度に産む子や卵の数は、産んだ子や卵が無事に成長する可能性が低ければ低いほど多くなります。いかに次世代に子孫を残すかという生存戦略の中で、生き物たちはさまざまな工夫を凝らしているのです。
哺乳類が進化の末に選んだ胎生という生殖方法は、胚から新生児として生まれるまで確実に体内で育てることで生存率を上げるという作戦です。卵生の魚は、たくさん産めば1匹ぐらい成魚になるでしょうという作戦を採用しています。
水中に産みっぱなしにする魚もいれば、川の底の砂を掘って産卵したり、水草に産み付けたり、二枚貝の中に産卵してふ化するまで貝に保護してもらったり、岩陰などに産み付けられた卵を親が守ったりする魚もいます。しかも、それだけではありません。メスが産んだ卵をオスが口の中にくわえて面倒を見たり、メスが産んだ卵をオスが育児嚢で育てたり、あるいは受精卵を体内で育てて確実にふ化させてから外界に放出(出産)したりとバリエーションは非常に豊富なのです。
最後の方法「受精卵を体内で育てて確実にふ化させてから外界に放出」するこちらを卵胎生と呼びます。
え?それって胎生と何が違うの?
と思いますよね。胎児が直接産まれるわけだから胎生と卵胎生の大きな違いはないように思えます。
胎生と卵胎生の違いは、母親の胎内での栄養の供給があるかないかの差となります。卵胎生の場合、胎内では卵の中で栄養の供給が完結するため、直接母親から栄養が供給されることはありません。
あくまでも卵をお腹の中でふ化させるという考え方なのです。
卵胎生のメリット・デメリット
産み落とした卵からのふ化率を上げることをとことん工夫した挙句、胎内で守る方法を選択した卵胎生の魚。
卵胎生という繁殖様式にもメリットとデメリットが存在します。
メリットは当然ながら無抵抗の卵が外敵に食べられる心配もなく、親が生きている限り卵がふ化するのを胎内で守ることが可能であることです。
一方、デメリットといえば…。あえてこれをデメリットとして挙げるとしたら胎内が狭く、稚魚が入れるスペースが限られるために稚魚の数が制限されてしまうことでしょうか。
こんなにいる卵胎生の魚
超マイナーな繁殖様式のように思われる卵胎生。しかし魚類のうち、サメ・エイ・深海魚のギンザメ類などの軟骨魚類では全種数の約70%、軟骨魚類では2~3%が卵胎生であるといわれています。
2~3%しかいない希少な硬骨魚類での卵胎生の魚ですが、グッピー・プラティ・モーリーという大人気熱帯魚3種がその2~3%に含まれるというのは不思議ですね。
卵胎生の観賞魚であるグッピー・プラティ・モーリーたちは、卵を安全な胎内でかえしてから稚魚を生むため、繁殖は比較的容易な種とされています。そのため、初心者が「熱帯魚の繁殖を……」と考えたときに真っ先におすすめできる種類でもあります。
稚魚の生存率が高いので繁殖が容易であり、繁殖が容易だからこそ改良品種が作出しやすい。そのため愛好家が多く、ペットフィッシュに最適なのです。
真胎生という型破りな魚
散々「卵胎生」について説明しておいて何なのですが、なんと魚の中には哺乳類と同じ「胎生」の魚が存在します。
え、ちょっと待って!噓でしょ!学校で習ってないよ!
と、常識を覆されて右往左往している方もいらっしゃるかと思いますが、います。
何なら観賞魚として流通しています。ただ、ブリードの流通個体が少ないため、もし見かけたらぜひ購入されることをお勧めします。
「ハイランドカープ」
メキシコのナヤリト州~ハリスコ州に生息する、グーデア科の魚では古くから知られる真胎生メダカ。
妊娠期間が長く、稚魚が大きく育ってから生まれるため、産仔数が少ない特徴を持ちます。稚魚が大きい分だけ育てやすく、親魚と同居でも食べられてしまうことは少数です。
「胎生」の定義は胎児が母親から栄養の供給を受けることです。そのため、胎児は母親とへその緒でつながっています。
卵をお腹の中でかえし、母親からの栄養の供給のない「卵胎生」に対して、母親からの栄養の供給がある魚の繁殖様式を「真胎生」と呼びます。
出生までの間、母魚の卵巣で胎仔と呼ばれる状態で過ごす「真胎生」の魚。胎仔のお尻あたりには「栄養リボン」と呼ばれる偽胎盤構造のものを持ち、それを通して母親からの栄養供給を受けるのです。
栄養供給のない「卵胎生」は、卵の中で完結できる栄養を一気にため込まないといけません。それに対して、「胎生」は母親がリアルタイムで取った栄養を同時に胎子に供給できるため、ある意味効率的な子育てであるといえます。
ちょっと理科の勉強のようになってしまいましたが、水槽の中で繰り広げられる生き物の不思議を少しでも身近なものに感じてもらえたら嬉しいです。
コメント