シジミから真珠が出た~潮干狩りにまつわるエトセトラ~

潮干狩りのシーズン最盛期は春といえど、実は秋まで楽しめる潮干狩り。
夏にシジミ採りを目的に潮干狩りをする人もいることでしょう。
食べるために貝を採るだけではもったいないと、筆者の体験を織り交ぜながら貝の雑学を散らかした突発性コラムです。

潮干狩りで採ったシジミから真珠―真珠はアコヤガイの専売特許ではない

貝を食べたとき舌にザラザラと嫌な感触があったらそれは砂である場合がほとんどです。
ところが、かんだ後にガリッ!と粒のようなものを感じたらひょっとすると“真珠”かもしれません。

真珠といえば、アコヤガイから採れる価値の高い宝石を思い浮かべる人が多いでしょう。
貝から採れるのに宝石というのは違和感があるかもしれませんが、真珠は生物によって作り出される鉱物「バイオミネラル」の一つであると聞けば、腑に落ちるのではないでしょうか。貝の殻もウニのトゲもエビの殻もみんなバイオミネラルの一種です。病気でできる石、腎臓結石だってそう。

筆者スズキの場合、汽水域でとったシジミから真珠を見つけることができました。潮干狩りというと一般的に海のイメージが強いかと思われますが、シジミは淡水や汽水で暮らしています。
さてそのシジミから採れた真珠、大きさにして2mmくらいでしょうか。アコヤガイの真珠のような美しい照りはなく、少しいびつな形も……。

「それって本当に真珠なの?」という声が聞こえてきそうですね。

宝石鑑別団体協議会、日本ジュエリー協会の資料によると、真珠は生きた貝の体内で作られたもの、なおかつ母貝の貝殻真珠層と等質であるものと定義づけられています。

例外的に、真珠層構造を持たないものも認められています。さらに天然真珠、養殖真珠と区分がありますが、人の手が一切加わらずに形成されていれば、それは「天然真珠」といえるようです。

真珠層とは、貝殻の陶器質の層のことをいい、真珠色のようなピカピカの光沢を持っています。アワビやトコブシ、カラスガイの内側がそれです。ナガラミ(キサゴ)はそのままでも美しいのですが、表面をヤスリなどで磨くと全体がピカピカになることが知られています。

アワビ
ナガラミ(キサゴ)

シジミはというと真珠層を持っていません。真珠層を持たなかろうが「真珠層を持たない貝の体内で真珠袋(パールサック)が形成され、その中で形成されたもので、表面全体が非真珠層で覆われているもの」であれば、“真珠層構造を有しない天然真珠”として認められます。
(科学的には、真珠層を持たなければ「真珠様物質」と呼ぶべきなようですが。)

真珠袋の形成を確かめることはできませんが、貝は体内に異物が入り込むとそれを取り囲むようにして貝殻を作る成分を分泌。異物は貝殻を作る成分に覆われながら結晶化し、球状の物質が形成されるという仕組みがわかっています。

真珠いろいろ。球形でなくても真珠は真珠

アサリやシジミにハマグリ、サルボウ、ホンビノス、カガミガイ、アオヤギ……これらは潮干狩りで比較的よく見かける二枚貝です。理屈からいったら、殻を作れる貝であれば真珠は採れるハズ。

貝殻を作る成分と同じため、真珠の色は貝殻に近くなります。見つけたらぜひコレクションを!
ちなみに筆者スズキは、また採れるだろうからと真珠を処分して以来、再会かなわずにいます。

収穫量でいえば、アサリのほうが圧倒的に多いのですがアサリの真珠に出会ったことはありません。
あっ、もしかしてカニだと思ってガリガリ食べてしまったアレ、真珠だったのかも。

チャームでも取り扱いのあったカワシンジュガイは販売禁止に

カワシンジュガイは採らないで

カワシンジュガイは北海道や本州の川のうち、夏でも水温が20℃を超えないような冷たい川に生息しています。まれに真珠を作ることに加え、幼生は魚のエラに寄生して成長をする、100年ともいわれる寿命の長さなどその生態はとてもユニークです。

かつてタナゴの産卵母貝として流通していましたが、2022年1月24日よりコガタカワシンジュガイとともに国内希少野生動植物種(特定二種)に指定され、販売禁止となりました。

カワシンジュガイは寿命がとても長い分、成長も非常に遅く、大人の貝になるまで数年から数十年かかるといいます。種を守るためにも採らないようにしてください。

似た姿のドブガイがタナゴの産卵母貝に利用されています。こちらも幼生時代は魚のエラなどに寄生しながら成長します。中でも北アメリカ産のドブガイは一度に多く真珠が採れるといい、貝殻を削ったものがアコヤガイの真珠の核に利用されています。

潮干狩りで採ったアサリから『ピンノ』―ちっちゃくてもオトナのカニ

アサリ汁など、口の開いたアサリでちっちゃなカニを見かけることはありませんか。アサリやハマグリなどの二枚貝などにすんでいる小さなカニをまとめてカクレガニと呼びます。コードネームのような「ピンノ」という別名を持っていて、これは科名のPinnotheridaeに由来します。それにしてもどうやってピンノは貝に入り込んだのでしょうか?

貝に住み着くのは1cmほどのメスで、カニにしては柔らかな甲を持っています。サンゴとクマノミのような共生関係というよりは、どちらかといえばパラサイト、寄生的な暮らしをしている種が多いようです。宿主を食べることはないものの、ピンノが入り込んでしまうと成長が妨げられて大きくなりません。オスはメスの半分くらいのサイズしかなく、こちらは宿主に自由に出入りしているようです。ピンノにはいろいろな種類がいて、種によって宿主も異なります。中にはサザエピンノのように、オスとメスが一緒にサザエの胃に棲む(異説あり)というから驚きです。

ピンノに占拠されたアサリは身が小さくなりがち

アサリやハマグリで見かけるのは、カクレガニの中でも最もスタンダードな種のオオシロピンノです。メスは貝を占拠してエサを横取り、オスは繁殖時だけ貝に入り込むのだとか。

メスはサイズ的に外に出られないため、産卵もふ化もアサリの中。幼生だけ水管から出て稚ガニまでを外の世界で暮らし、稚ガニのメスはやがてアサリに寄生するといいます。

変わった生態を持つピンノですが、あまり解明されていない部分が多く、どうやって貝に侵入するのかも不明なものが多いようです。貝を数時間くすぐり続けて開けさせて侵入した!なんて知恵モノもいるとかいないとか。

一見、ピンノの小ささにカワイイ!となりますが、アサリにとっては何もメリットがなく、狭い空間に入り込んでエサを横取りする厄介者でしかないようです。

潮干狩りで採れるハマグリは一晩で12㎞走る―グレたのはハマグリのせい?

パックのアサリなどを見ると、二枚貝はじっと動かないイメージを持つかもしれません。
ところが貝はベロのような足を巧みに使って移動しますし、貝によっては跳ねるし泳げます。
ことにハマグリの移動能力の高さは貝の中でもトップクラス。

ハマグリは一夜に三里走る」なんてまことしやかに語られるくらいですから。

一里は約4㎞なので三里なら約12㎞。一夜とは日暮れから夜明けまでを指すのでざっくり12時間とすると、速さ=距離(道のり)÷時間なので時速は1㎞という計算になります。時速は60で割れば分速を求めることができます。分速に換算すると16.666…、約17mですね。

都市伝説とあって“一夜に三里”はさすがにオーバーなのですが、実際にハマグリの移動能力は分速1mといわれています。ハマグリの大きさ、移動に不便そうな体の作りを考えると相当な速さですが、その秘密は引き潮のときに水管から粘液を出して潮の流れに乗るのだそう。

さて、潮の流れを利用するハマグリに対して、船にくっついてはるばるアメリカからやってきたのが「白ハマグリ」ことホンビノス。近年、日本で急速に生息数を増やしているホンビノスは、アメリカではクラムチャウダーの定番具材です。そのアメリカでもシチューのホンビノスから真珠が出たなど記事にされており、洋の東西を問わず、人は真珠に神秘を感じるのでしょう。

ホンビノスの貝殻内側の色に注目
ホンビノスの真珠は紫色

ホンビノスから採れる真珠は、メキシコでは「クオホッグパール」と呼ばれています。名前が付いているだけあって良質なものは紫がかった黒っぽい真珠でとてもキレイ!

愚連隊イメージがこうだったら……

ところで、不良化した中高生を「グレる」といいますが、その語源はなんとハマグリ。平安時代の貴族間ではハマグリを使った遊び「貝合わせ」がはやっていました。貝殻の組み合わせが違う、かみ合わないことを“ぐれはま”といい、それが転じて「グレる」になったそう。

不良集団を指す愚連隊もグレるという言葉から生まれたようで、ハマグリの集団と考えるとほっこりします⁉

潮干狩りは偶然を楽しむ

潮干狩りは掘っては貝を採る作業の繰り返しです。どんな貝がどのサイズで出てくるかはわからない、偶然の連続とも言い換えられるでしょう。はたまた真珠やピンノは偶然の副産物です。たとえばアサリから真珠が出る確率は、数万に1粒という宝くじレベル。ピンノなら出会える確率はもう少し高まるかもしれません。

時をさかのぼって時代は江戸。まだ埋立地も何もない江戸の海は、豊饒の海として海産物の宝庫でした。潮干狩りも江戸の庶民の人気レジャーの一つで、アサリを採る横でヒラメが捕れて喜ぶ様子、タコが暴れて人々が驚く様子など、潮干狩りを題材にした浮世絵も多く残されています。

しかも、潮干狩りは食材探しだけではなく、「出会いの場」だったとか。

潮干狩りで出会った男女の恋物語として、9幕30場にわたってドラマチックな展開が繰り広げられる歌舞伎の演目『与話情浮名横櫛よわなさけうきなのよこぐし』があります。世間知らずのボンボンの若旦那、与三郎が木更津の浜辺で地元親分の妾であるお富を見初めてしまう……なんて設定段階からとてもキケンな香りがしますが、二人とも実在した人物で、出会ってデートを楽しんだのは本当のところであるようです。

時間を戻しましょう。時は現代、筆者スズキが知る限り、潮干狩り場ではみんな足元しか見ていません。

すぐそばに絶世の美男美女がいようが、多分・おそらく・きっと気付いていないかと思われます。

もし、アサリがお目当ての場合、その色や模様にぜひ注目してみてください。地域によっては、アサリはとてもグラフィカル。時には青みがかったきれいなアサリも見つかります。

アサリの模様は顔と同じで、同じものはありません。模様には一定のパターンがあるものの、地域差や底質環境によって変化する、色や模様は遺伝性が強いといわれています。

スーパーのアサリでも、産地ごとにある程度の傾向がわかるのではないでしょうか。

まとめ

潮干狩りは春に限らず、秋まで比較的長く楽しめます。春が有名なのは、大潮の日は一段とよく潮が引くこと、アサリやハマグリの旬が春であることも関係しているでしょう。
夏場など気温が上がる時期は、貝が悪くならないようクーラーボックスの用意をおすすめします。
潮干狩り場以外で貝を採る場合、漁業権に注意してください。

貝を逃さない!網付き

座れる!らくらくバケツ

採った貝を落とさない!

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