底床のひとつであるソイルは、栄養分を含んだ土を焼き固めたもの。水質を弱酸性に傾ける作用のほか、ソイルによっては有害物質を吸着するなどの働きから、水草の育成や熱帯魚、ビーシュリンプの飼育に好んで使われています。
さて、ソイルは少し前まで「定期的な交換が必須」が常識でした。
ところが最近では「必ずしも交換は必須ではない」と常識が変わりつつあります。
実は意外と長く使えるソイル、どんな場合に交換が必要なのでしょうか……?
変わるソイル交換の常識
かつての常識が時代とともに常識ではなくなる。それはアクアリウム界にも起こります。
そのひとつが、今回取り上げる「ソイルの交換について」です。
少し前までソイルは消耗品であり、その働きを失ったら交換は必須とされていました。
交換には水槽をリセットする作業がともなうため、ソイルは敷居が高いイメージもあったようです。
それが最近になって、ソイルは管理次第で交換は必須ではないという意見が出てきました。
ソイルが果たしていた役割を失っても、それを何で代替すれば良いかがわかってきたからです。
また、世界的にSDGsが叫ばれる中でソイルは土を原料としていることもあり、「用土は限られた資源なので大切に使おう」という風潮も出てきています。
アクアラシック、マリンラシックで執筆をしてきたC34H34N4O4氏からもこんな証言が得られました。
最近のコアなアクアリスト、特に水草をやりこんでいる人たちの間ではソイルをなるべく交換せずに水草を育てようとする方法論がよく話し合われていますね。
ちなみにうちでは10年ソイルを交換せずに水草を育てている水槽があります。
ソイル交換の必要性は使用目的で判断
ソイルは粒が崩壊した場合に交換するという考え方が基準です。
ただし、ソイルの使用目的によって交換の必要性やタイミングは異なってきます。
ここでは、3つの目的に分けて解説します。
水草を調子良く育てたい
ソイルが失った元素を補充することで再利用できます。
ただし、適切に再利用するには肥料の知識が要求されるため、難しいと感じる人は交換したほうが確実です。
魚を調子良く育てたい
粒が崩壊していなければソイルの交換は不要です。魚の飼育によく用いられる吸着ソイルの場合、使い古すと吸着機能は衰えるものの熟成されてバクテリアが定着しています。つまり、生物ろ過機能が強化されているため、リセットせずにそのまま利用したほうが環境が安定しやすくなります。
衰えた吸着機能は、フィルターに活性炭やゼオライトを追加するなど、ソイル以外の手段で補うと有効です。
なお、ネオンテトラやラスボラなどいわゆる「初心者向けの丈夫な熱帯魚」なら、粒が崩れておらず、生体の調子も良いのであればそのまま数年使っても問題ありません。
エビを殖やしたい
エビの繁殖を目的とする場合、基本的にはソイルを交換したほうが良い結果が得られるようです。
本格的なブリードを目指すなら、粒が崩れるなどソイルの寿命とされるタイミングよりも高頻度で交換すると良いでしょう。基本的に6カ月をめやすにリセットするのが良いようです。
ソイルは時間の経過とともに働きを失う
上では、ソイルの使用目的によって交換の必要性やタイミングが異なることをお伝えしました。
なぜ交換する必要があるのか、ソイルの働きについて知るとイメージしやすいでしょう。
ソイルには栄養系と吸着系と2種類ありますが、ここでは個別に持つ働きと共通の働きについて解説します。
吸着系ソイルは吸着能力が低下する
アンモニアなどの有害物質を吸着する吸着系ソイルは、次第に吸着能力が衰えていきます。見た目では判断しにくいので、キットを使って水質をチェックしてみましょう。アンモニアの数値が高い場合はソイルの吸着能力が落ちているサインです。
栄養系ソイルは栄養分が減少する
ソイル自体に栄養を含んでいる栄養系ソイルは、水草レイアウト水槽の立ち上げ時においては有害物質の吸着作用まであって大変便利です。しかし、こちらも次第に栄養分は減少するため、水草の成長が悪くなり、吸着能力も低下していきます。また、エビのブリードに使用している場合は、エビが殖えにくくなってきます。
イオン交換+ミネラル(カルシウムを含む)放出
腐植酸、腐植質の添加剤
ミネラル(微量元素)補給の添加剤
水質調整機能が失われる
時間がたつにつれて水質調整機能が失われ、pHが下がりにくくなったり硬度が上がったりします。
見た目ではわかりにくいため、キットを使って水質をチェックしましょう。
水換え時にpHを下げる
カルシウム、マグネシウムの吸着(イオン交換)
形が崩れ、水質悪化を招く
水槽に敷き詰めたソイルは、時間がたつと次第に粒が崩れていきます。崩れて泥状になったソイルが蓄積してしまうと通水性を失ってしまいます。泥状のソイルを放置しているとやがて嫌気性細菌が増殖し、水質悪化が起きるというわけです。
ソイルの寿命について
ソイルの寿命は、一般的に半年から1年といわれています。
寿命とは次の3つを指しており、これらが枯渇したり寿命を迎えたりすることです。
①イオン交換能力(カルシウムやマグネシウムを吸着する量)
②ソイルに含まれる腐植酸(水質を弱酸性に整えたり、カルシウムなどミネラル分を生体が吸収しやすい形にする物質)
③粒の形状
環境や製品によって寿命の長さは前後しますが、ソイルの粒が崩れて泥状になったら交換しましょう。
ソイルの交換方法
泥状になった古いソイルは新しいソイルに交換します。
このように、水槽を新たに立ち上げ直すのがいわゆる“水槽のリセット”です。
ソイルの交換には、新しいソイルのほかにバケツ、生体をすくうネット、ソイルをすくうスコップ、古いソイルを捨てるゴミ袋が必要です。また、水換えホースがあると便利です。
①バケツなどの容器に飼育水と生体を移す
作業前に床の汚れ防止用として新聞紙を広げておきます。
バケツに水換えホースなどを使って飼育水を移し、その中に生体も移します。
エアポンプがあれば酸素を供給してあげると安心です。
移した生体は新しいソイルを敷いたら水槽に戻します。水温や水質の急変を防ぐため飼育水はなるべく多めに残してください。
②レイアウト類を取り出す
生体以外の水草やレイアウト類を取り出します。
③古いソイルを取り出す
スコップなどを使って古いソイルをすべて取り出します。
水槽に汚れがこびりついているようであれば、掃除しておくと良いでしょう。
④新しいソイルを敷く
水槽がきれいになった状態で新しいソイルを敷きます。
⑤レイアウト類を戻す
取り出したレイアウト類を元に戻します。
⑥飼育水と生体を戻す
移動させた飼育水を水槽に移します。ソイルが巻き上がらないようにゆっくり入れましょう。
最後に生体も水槽に戻してください。
古いソイルは、お住まいの自治体の区分に従って処分してください。
水槽が大きい場合
水槽が大きくなると一度にすべてのソイルを交換するのは大変です。
まずは半面を交換し、1カ月ほどたったら残りの半面のソイルを交換する方法もあります。
メリット:ソイルの交換による急激な水質の変化を和らげ、生体への負担が少なくなる
デメリット:手間がかかる、レイアウトを再構築するのに時間がかかる
デメリットを考えると、どちらかといえば簡素なレイアウトや生体メインの飼育スタイル向けといえます。
ソイル交換にあると便利
ソイルを長持ちさせるために
ソイルの交換は大がかりな作業となるため、なるべく寿命をのばしたいものです。
そのためには、崩れにくいソイルを選び、レイアウトの変更をあまり行わないようにしてソイルへの負担がかからないようにしましょう。
<ソイルを長持ちさせるポイント>
・粒が大きなものを選ぶ
・粒がかたいものを選ぶ
・頻繁にレイアウトを変更しない
・ソイルを掘り起こす、ソイルにもぐる魚を導入しない
まとめ
寒い時期にソイルを交換するのは大変なため、なるべく暖かな季節に行うのがおすすめです。
また、ソイルを交換すると水質が不安定になりがちです。
崩れていなければソイルはそのまま利用、新しいソイルを補充しても良いでしょう。以前ならソイルの交換には水槽のリセットをともないましたが、リセットも必須ではないという考えに変わってきています。
最後にソイルをできるだけ交換しない方法をご紹介しましょう。
ソイルをできるだけ交換しない方法
・プロホースで汚泥を吸い出す→ソイルの崩れを解消
・固形肥料をソイルに投入する→失った栄養分を添加する
・汚泥を吸い出して減った分のソイルを足す→水質調整機能の回復
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