お分かりかと思いますが、飼っている魚を野外に放すことは生態系に大きな影響を与える行為です。また、放流されても飼育下の魚は環境に適応せず、死んでしまう場合がほとんど。
環境保全・動物愛護の観点からも、一度飼育したら飼育者の責任の下、魚が寿命を全うするまで飼いきることを啓蒙するのも我々の使命!ということで、そのあたりのことをいろいろご紹介しますね。
外来魚とは
「外来魚?知ってるよ。外国の魚を放流して住み着いちゃったやつでしょ?」と、思ったアナタ!
残念!不正解!!
外来魚の定義は「自然分布外に人為的に導入されてしまった魚」全てを指します。
そのため国内外を問わず、本来その場所にいなかった魚を人が移動させて、その魚が住み着いちゃったら全て外来魚に当たるのですよ。
その地には、気候や地理的条件などで成り立っている固有の生態系があります。その生態系の外の魚を持ち込むこと自体がすでに生態系の破壊につながる行為に当たるのです。「メダカなんて日本にいる魚だから飼えなくなったからその辺に放しても問題ないよね」と思っている方、ダメ。ゼッタイ。
放そうとしているその川にもともとメダカはいるのでしょうか。
そもそも、あなたが放そうとしているメダカは日本の野生のメダカと同じものなのでしょうか。
川にメダカがいるからといっても、それはその川固有の遺伝子情報を持つ個体群なわけで、あなたが放そうとしているメダカ、すなわち別の地域にいたメダカもその地固有の遺伝子情報を持つ個体なわけです。つまり、別の地域の個体を導入することは、人間のせいで交雑が起こってしまう、いわゆる「遺伝子汚染」を引き起こすことになるのです。
※ちなみに日本にはキタノメダカ・ミナミメダカの二種が生息しています。
一度飼育下に置いた魚は、あなたの責任の下に、天寿を全うするまで飼育することがアクアリストの基本常識ということを忘れてはいけません。
特定外来生物とは
外来魚の中でもこれは特にだめだ!!と法律で判断され、「飼育、保管、運搬、輸入、放流、譲渡、販売」が禁止されている魚がいます。
それを「特定外来生物」と呼び、それを定めた法律を「外来生物法」といいます。
特定外来生物に指定された魚は、もうすでに日本に定着し、生態系や農林水産業に甚大な被害を出してしまっている魚や、今後定着したら日本の水産業や生態系に対して取り返しのつかないことになってしまう魚です。そのため、外来生物法もかなり厳しいものとなっています。
その内容は、個人でも最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金。法人になると最大で1億円以下の罰金という非常に重い罰則が定められています。
特定外来生物に指定された魚の種類
2022年7月時点で以下の魚が特定外来生物に指定されています。
もちろん、今後も影響が大きいと判断された魚が追加されるケースは十分考えられます。
- ガー科の全種とその交雑生物
- オオタナゴ(Acheilognathus macropterus)
- コウライギギ(T. fulvidraco)
- ブラウンブルヘッド(A. nebulosus)
- チャネルキャットフィッシュ(I. punctatus)
- フラットヘッドキャットフィッシュ(P. olivaris)
- ヨーロッパナマズ(ヨーロッパオオナマズ)(S. glanis)
- カワカマス(パイク)科の全種とその交雑生物
- カダヤシ(G. affinis)
- ガンブスィア・ホルブロオキ(G. holbrooki)
- ブルーギル(L. macrochirus)
- コクチバス(M. dolomieu)
- オオクチバス(M. salmoides)
- ラウンドゴビー(N. melanostomus)
- ナイルパーチ(L. niloticus)
- ホワイトパーチ(M. americana)
- ホワイトバス(M. chrysops)
- ストライプトバス(M. saxatilis)
- ホワイトバス×ストライプトバス(M. saxatilis×M. chrysops)
- ラッフ(G. cernua)
- ヨーロピアンパーチ(P. fluviatilis)
- パイクパーチ(S. lucioperca)
- ケツギョ(S. chuatsi)
- コウライケツギョ(S. scherzeri)
アクアショップで販売されていた特定外来生物に指定された魚
特定外来生物に指定された魚の中には少し前までアクアショップで当たり前のように流通していた魚もいます。ペットとして正しく飼育されていた方がほとんどの一方で、一部の心ないアクアリストが(そういう人をアクアリストと呼びたくないですが…)野外に放流し、問題となって飼育できなくなったのが以下の魚たちです。
ガー
お堀や河川で巨大ガーの発見が相次ぎ、話題となっているのは皆さんもご存じかと思います。巨大肉食魚であり、在来種を食べて生態系に影響を及ぼすとの理由から2018年4月より、観賞魚として輸入・販売されているガーのすべてが特定外来生物に指定されました。ただ、当時はあまりにも観賞魚として飼育しているアクアリストが多く、密放流の懸念もあったことから、指定以前から飼育している場合は申請すれば飼育継続可能という措置が取られました。
オオタナゴ
2001年頃から霞ヶ浦で確認されて以降、利根川水系などを通じて分布を広げているオオタナゴ。在来のタナゴよりも大型のため繁殖競争に勝ち、置き換わって個体数を増加させています。持ち込まれた経緯は、観賞魚が放流された可能性も高いのですが、在来のタナゴ同様に淡水性の二枚貝に産卵をするため、淡水真珠の養殖用に持ち込まれた二枚貝に卵が混入し、そこから増えたという説も有力です。2016年10月に特定外来生物に指定されました。
ヨーロッパオオナマズ
最大体長3m
メコンオオナマズと並び、巨大ナマズの代表選手ともいえる魚がヨーロッパオオナマズ。日本では2016年10月に特定外来生物に指定されました。在来種を食べつくし、その地の生態系を破壊してしまう魚として問題視されているためです。
また、すでにヨーロッパでは巨大魚釣り目的のため各地に持ち込まれた経緯があります。日本では大きくて丈夫(アルビノ個体は目立つ)という理由から観賞魚として流通していました。大きくなったために飼いきれずに放流…ということが相次いだようです。
ガンブシア・ホロブロッキー
メダカに激似問題で有名なカダヤシ(特定外来生物)と近種の卵胎生メダカです。そもそも北米原産で低温や水質の悪化に強く、繁殖力もあるため、日本の野外でも容易に繁殖してしまうことから2016年10月に特定外来生物に指定されました。流通量はもともとさほど多くなく、むしろ日本では希少種でしたが、カダヤシの外来種としての脅威がガンブシア・ホロブロッキーをも特定外来生物に引き上げたのかもしれません。
特定外来生物指定の魚を捕まえてしまったら
特定外来生物に指定された魚は、飼養、保管、運搬、輸入が禁止されています。そのため、釣れたとしても持ち帰ってはいけません。
もし、特定外来生物を釣ってしまった場合、その場所から移動させずにリリースをする分には問題ありません。もしくは、移動せずにその場で食べるというのも可能です(かなりトリッキーな技です)。ただ、一部自治体の条例では特定外来生物のリリースも禁止されている場合があります。たとえば、特定外来生物のリリース禁止を定めた滋賀県琵琶湖では、「外来魚回収いけす」「外来魚回収ボックス」が設置してあり、そこに投入するルールとなっています。
特定外来生物じゃなければ放流していいのか
残念なことに、特定外来生物以外の魚を放流してはいけないという法律はありません。動物愛護法で定められる「愛護されるべき動物」は、現時点で哺乳類・鳥類・爬虫類にとどまります。
ここからは我々アクアリストのモラルと倫理観の問題となります。
ガーやナイルパーチは指定以前、大変人気のある魚でした。モラルのない一部のアクアリストによる放流行為により、これからアクアリストになる方は、ガーやナイルパーチを飼いたいと思ってももう飼育することはできません。昔の熱帯魚図鑑だけで見ることのできる、過去の魚となってしまっています。先輩の失態によって後輩の選択肢を狭めることはしてはなりません。
そのためにも、放流は絶対にしてはいけないのです。
生態系被害防止外来種
今後、規制されるかもしれない外来種を選定し、生態系被害防止外来種として検討がなされている種類です。
驚くべきことに、グッピーというアクアリウムの超メジャー種もリスト入りしています。
※観賞魚の放流によると思われる生態系被害防止外来種指定の魚は太字にしています
- タイリクバラタナゴ
- カワマス(ブルックトラウト)
- ブラウントラウト
- ニジマス
- グッピー
- ソウギョ
- アオウオ
- カラドジョウ
- ウォーキングキャットフィッシュ(クララ)
- マダラロリカリア(ヒポプレコ/サッカープレコ)
- タイリクスズキ
- ゴールデンパーチ
- マーレーコッド
- ナイルティラピア
- モザンピークテラピア
- カムルチー
- タイワンドジョウ
- コウタイ
- ティラピア
アクアリウムの未来のために
最近では、ゴールデンゼブラシクリッドが横浜の住宅地の水路で繁殖していることが騒がれているのをご存じの方も多いかもしれません。飼育されていた観賞魚を安易に放流し、それが騒がれることで世論を動かし、特定外来生物の仲間入りという深刻な事態を招いてしまうのです。
未来のアクアリストたちにも、観賞魚飼育の道を残してあげていただきたいと思います。
「一度飼育した魚は、最後まで責任をもって飼いきる。いかなる理由があろうとも絶対に放流しない。」
アクアリストとして守るべき当然の責務ですね。
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