今回ご紹介するのは、温厚でかわいらしい表情を持つ人気者「ウーパールーパー」。メキシコのソチミルコ湖周辺に生息する、両生類サンショウウオの仲間です。
「メキシコサラマンダー」「メキシコサンショウウオ」といった別名を持つほか、「アホロートル」とも呼ばれています。
ショップなどではよく目にする彼らですが、生息地では絶滅危惧種に指定されているように、野生のメキシコサラマンダーは保護管理が進められています。
生物学データ
分類 | トラフサンショウウオ科・トラフサンショウウオ属 |
最大体長 | 25cm |
食性 | 肉食性 |
分布 | メキシコ(ソチミルコ湖) |
メキシコサラマンダーはその名の通り、北アメリカのメキシコ合衆国の首都、メキシコシティのソチミルコ湖およびその周辺に生息しています。
両生綱有尾目トラフサンショウウオ科トラフサンショウウオ属に分類されます。
全長は10~25cm。メスよりオスが大きく成長し、幼形成熟であり成長しても変態せず幼生の姿で成熟を迎えます。
顔の左右についた『外鰓(がいさい)』が顔の両側に3つずつ、計6つあり、エラ呼吸を行うことができます。
夜行性で、日中は岩や倒木に隠れて生活しているようです。肉食中心の雑食性で、水中にいる小魚・虫・甲殻類を食べています。(動きが遅いため、物陰に隠れて目の前を通る獲物を捕獲する待ち伏せ型。)
先述したとおり幼生成熟を行う非常に珍しい特徴、手足やシッポ、エラのみならず、損傷した臓器までも再生する驚異的な再生能力があります。
このことから実験・研究動物として採取されていたようです。
都市開発などによる生息地の消滅や乾燥化、水質汚染などから、1975年からワシントン条約附属書IIに掲載されています。
生体の特徴
ネオテニーと変態
ネオテニーとは『幼形成熟』ともいい、成長期の状態で性的成熟に達し、幼生の姿のまま大人になることです。進化において成長速度が全体として遅滞する方向に変化したことから、祖先の幼児期の状態が大人にまで残ってしまうのではないかといわれています。
そのネオテニーの代表ともいえる生体がメキシコサラマンダーになります。皆さんご存知かと思いますが、皆さんがよく目にする個体は幼生ですが成熟しても容姿は変わりません。
両生類の幼生時はエラ呼吸で生活しており、変態(成長)し肺や皮膚呼吸を行いますが、有尾目の中には変態をせずに幼生の形態のまま性成熟する種がいます。
幼形成熟といってもまったく変態しないわけではなく、ある一定の条件を満たすと変態し上陸します。(幼生時とは異なり、かわいさはなくなります……)
変態する条件をご紹介しましたが、おすすはしません。
メキシコサラマンダーは10年以上生きるといわれていますが、変態してからの寿命は1カ月~5年となります。かわいさをなくし、寿命を縮ませる必要はないかと思われます。
(細胞分裂により負担がかかることで寿命が縮まるといわれます。)
変態させる際は自己責任となります。
脅威の再生能力
人間も再生能力はありますが、擦り傷、切り傷程度の皮膚が再生して治るような軽微な傷に限定されます。ところが、地球上にはパーツを切り離しても再生する生き物もいます。
再生能力を持つ生物といえば、プラナリアを思い浮かべる人もいるでしょう。
メキシコサラマンダーも独自の再生能力を持ちますが、致命的なケガを負わない限り再生すると言ってもいいくらいなのです。
手・足はもちろんのこと、脊椎や心臓といった部位までも再生が可能です。そのことから再生医療の分野で注目される種で、1864年から実験動物として繁殖が行われた歴史があるようです。
宇宙人?
諸説ありますが、昭和60年にUFOに乗って宇宙からやってきた宇宙人という話が……ではなく、
日清食品のカップ焼きそばUFOのCMで起用されたことがあります。
当時はキャラクターソングや関連商品が多く登場するなど、空前のブームとなりました。
実は『ウーパールーパー』とは、日本でつけられた商品名です。
正式名称は「メキシコサラマンダー」または「メキシコサンショウウオ」。「アホロートル」とも呼ばれますが、アホロートルとは古代ナワトル語でトラフサンショウウオ科の幼形成熟の総称です。
外鰓(がいさい)
ウーパールーパーの顔の両サイドについているフサフサしているものを「外鰓(がいさい・そとえら)」といいます。
魚のエラ(鰓)と同じく、水中の溶存酸素を取り込んで二酸化炭素を排出する、呼吸をするための器官です。
多くの魚類はエラ蓋の中にありますが、メキシコサラマンダーは覆われず、外に突起しています。
外鰓が縮む原因
飼育していて外鰓が小さくなってしまうことがあります。原因は細菌感染・栄養不足といわれます。十分な餌を与えられていない、水質悪化や高水温による細菌類(エロモナス菌)の増殖による感染が考えられます。
縮んだ外鰓を再生、大きくフサフサさせたい場合、あるいは予防や対策は、以下の通りです。
栄養や水質の管理は、成長期でもアダルトサイズでも同じで良いでしょう。
1.水換えの頻度(回数)を増やす。
2.フィルターを見直す。(水槽や生体のサイズ(成長すれば排出物も多くなる)に合わせる)
3.餌の量を考える
大きく成長した個体がフサフサした外鰓に戻すには時間がかかります。
一方、成長期の個体は成長した個体に比べると外鰓の成長スピードは早いです。
小さくなった外鰓が再生しないことはありません。メキシコサラマンダーのかわいさの一つでもあるフサフサの外鰓の維持をすることで、生体管理もしやすくなるでしょう。
毎日のルーティン(エサやり・水換え)の中に、生体の観察を入れると早く対処ができ、良い方向へ進むと思います。
カラーバリエーション
メキシコサラマンダー
学名:Ambystoma mexicanum var.
マーブル
ワイルドのカラーにもっとも近い色といわれ、黄・黒・灰の迷彩柄が特徴です。
マーブルの中でも配色パターンが違うこと、黒単色に近い個体がいること、成長により幼生時とは違うカラーになるのも楽しみです。
リューシ同様に人気のカラーで、Charmブリード個体もいます。
リューシスティック(白黒目)・(金環目)
ウーパールーパーといえば、白の体色に黒目、外鰓がピンク。まさにその通りの人気のカラーです。
みなさんにとってはポピュラーな色ですが、それは変異色体なのです。
左の写真この個体はリューシスティックの金環個体です。
体色・外鰓はリューシとまったく同じですが、黒目の中に金環が光彩のように入るのが特徴です。
どちらのタイプも多く流通し、Charmでもブリードされています。
アルビノ
黒の色素が抜けた品種で、体色は白く、目も白や赤い個体がいます。
アルビノ特有の視力が弱さがあり、他のカラーと違って餌に気付かないこともあります。
マーブル、リューシの次に流通が多いカラーです。
ブラック
幼生時にはマーブルに近い色彩を持ちますが、マーブルと違って黒に深みがあるワイルド本来の色らしいカラータイプです。
幼生時に青く見えることもあってか、「ブルー」という名前で販売されることもあります。
近年、マーブル・リューシの流通が多く、ブラックは少ないようです。
ゴールデン
明るい黄色の体色と赤い目が特徴のアルビノ系のカラータイプです。
マーブル系統がアルビノ化したもので、柄が入る個体もいます。
アルビノ同様に視力が弱いので注意が必要です。
マーブル・リューシと違い、流通が多くはありませんが人気があります。
変異色
突然変異色のカラータイプです。画像のみでのご紹介になりますが、マーブルにイエローが混ざったタイプや、センターでわかれ左右色が異なるタイプと多くのカラーバリエーションがあります。まったく同じ色の入り方がいないことが多く、一点物という印象です。
「ミュータント」「モザイク」「ブリンドル」などの呼び方をされることがあります。
流通は少なく価格もお高いことが多いです。
アンダーソンサラマンダー
学名:Ambystoma andersoni
メキシコサラマンダーに近いサンショウウオの仲間のネオテニーです。
生息域はメキシコのサカブ湖で、ウーパールーパーの生息域から350kmほど離れています。
飼育方法はほぼ同じです。違いは模様、体格の大きさ、メキシコサラマンダーより発達した水かき、短いしっぽが挙げられます。
(メキシコサラマンダーより活発に動き回り、変態確率も高いといわれています。)
飼育環境・設備
水槽
45cm以上の水槽がおすすめです。
体長20cm以上に成長するため、小さいうちは45cm以下で問題ありませんが、成長を考えると単独での飼育であれば45cm水槽、複数飼育の場合は60cm水槽以上での飼育が良いでしょう。
生体の成長に合わせて飼育容器のサイズ変更を行う方法もあります。
フィルター
ウーパールーパーはきれいな水を好みます。
ベビーのうち(生体10cm以下)は45cm水槽以下でフィルターの場合水換えの回数(頻度)でカバーできます。45cm以上の容器での飼育であれば、水換えだけでは間に合わないかと思います。フィルターを設置し、水換えとフィルター両方でろ過を行います。
フィルター選びは飼育容器よりワンサイズ上を選ぶときれいな水を維持しやすいでしょう。
(例:45cm水槽使用で、60cm以上カバーができるフィルターなど)
水が汚れやすい・水が臭くなるので水換えは1週間に1回、水槽の3分の1ぐらいを目安に行います。
必要なら1週間に2~3回交換するのでも良いでしょう。
水温・水質
水棲飼育を用いた場合
水温:適温は10~25℃です。
生息地であるメキシコシティは標高が高く、外気温も5~26℃と涼しい気候であることから、高水温に弱いです。寒さには強いので氷が張らない程度の気温であれば問題なく飼育可能です。
(夏場の急激な水温上昇に注意してください。直射日光が当たらない涼しい場所が良いでしょう。)
水質に関してそこまでうるさくないので、水換え・急変に気を付けていれば問題ないでしょう。
フィルターを使用しない飼育方法であれば、飼育容器が小さいほど水換えの頻度を上げる必要がありますが、大きい水槽であれば3日に1回が目安となります。
底床
餌と一緒に底床を間違えて食べてしまうことがあります。詰まりや消化不良を起こすことがあるのでベアタンクでの飼育方法をおすすめします。
底床を敷く場合は砂タイプがオススメ。
餌
1日1回、エサを与えましょう。毎日エサを与えることでウーパールーパーの健康状態を把握しやすくなります。
5cmほどの生体であれば、ブラインシュリンプやアカムシ、イトミミズのほか、幼体用の人工飼料も販売されています。
体長10cmほどになると、生餌、冷凍餌、人工飼料(アダルトサイズであればメダカなど)のから選べます。
人工飼料で育てるのが一般的です。アカムシやイトミミズだけでは栄養価が不十分になるため、ほかのエサと組み合わせて与えると良いです。
与えれば与えるだけ食べてしまう大食漢であるため、食べすぎないようエサの量を管理する必要があります。
内臓に負担がかかり、下痢をすることがあります。エサのやりすぎや食べ残しは水質悪化の原因にもなります。
混泳
温厚な性格から混泳は可能ですが、混泳させる種によっては捕食対象になるため注意が必要です。
同種での多頭飼育も可能ですが、水質の悪化やエサと間違えてかむという事故があるため、できる限り単独飼育をおすすめします。
とてもマイペースな生体であり、動きが早い生体や大きいサイズの魚との混泳は不向きです。
待ち伏せ型で捕食するので隠れ家を設置してあげると、餌を捕食しやすくストレスを軽減できます。
繁殖方法・管理
繁殖時期
ウーパールーパーの繁殖時期は11月~5月です。水温10℃以下で1カ月過ごし、繁殖体型へと変わります。オスは生殖器が大きくなり、メスは腹部(胴周り)が大きく丸くなります。
水温が徐々に上昇する時期に産卵をはじめます。
産卵には体力が必要になるため、繁殖の時期の前には栄養をつける餌やりが重要になります。「活き餌・冷凍餌」「固形エサ」など両方をバランスよく与えることをおすすめします。
雌雄判別・繁殖可能サイズ
オス生殖器がある方・ないのがメスになります。
繁殖の判断サイズとして、オスの成熟は7カ月で18cm以上、メスは9カ月で20cm以上です。
(個体差があります。期間と全長サイズは参考程度とお考えください。)
この時点でオスとメスとでサイズ感が違うことが分かるように、大きく異なるサイズでのペアリングでは成功しないことが多くあります。複数匹飼育であれば、成長後のサイズでペアリングを行えば良いでしょう。
交尾・産卵
ウーパールーパーの交尾はメスがオスの身体に刺激を与え、オスは頭部でメスのお腹をたたき、メスに交尾を促します。その行動を複数回行い、オスが精包を容器の底などに産み付けてメスが総排泄口から精包を拾い上げ、体内に入れるよう促す行動を取り、数時間後にはメスが精包を探し拾い上げます。
オスが精包(~15個程度)を産み付ける際、凹凸があると良いです。メスは全ての精包を使用することは無く、複数のメスでそれぞれ使用することがあるようです。
12~20時間後には産卵が始まり、数日(1~2日、場合によっては3日)かけて卵を産みます。
産卵が終了したことを確認したら、卵を別の容器へ移すと良いでしょう。その時、卵が酸欠にならないようにエアレーションが必要になります。
(卵の管理に不要なものや無精卵などを取れる範囲で除去作業を行うこと、卵が1カ所に集まらないよう気を付ける必要があります。)
十分に酸素が行き渡らないと成長の妨げ、死につながります。
※2歳以上で産卵経験のあるメスの卵のほうがふ化率が高いといわれています。
個体にもよりますが、年に数回繁殖することも可能です。ただし、成体にも負荷がかかるため、むやみに繁殖させず、親個体はしっかり休ませて次の繁殖を行うようにしましょう。
まとめ
今回は珍獣ブームの立役者の一種、『メキシコサラマンダー』のご紹介でした。
今なお人気の衰えが見えない人気者、ほほえましい表情に、ずんぐりフォルム、生命力・再生能力の高さからくる丈夫さ。さらに、豊富なカラーバリエーションからくるコレクション性、ブリーディングも容易で『変異色体』のようなカラーなどの楽しみも兼ね備えており、多くの要素が詰まった品種です。
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