ホームセンターの園芸売り場でもたくさんの水辺植物を見かける時期になってきました。
涼し気な見た目につい手に取ってみたくなるものの、「育て方がわからない……。」と躊躇してしまう方もいるかと思います。
今回は「水辺植物を育ててみたいけど何もわからない」という方でも安心してはじめられるように、水辺植物の育成についての基本について、取り扱い上の注意点も交えながら解説していきます。
水辺植物の育て方 基本編
水辺植物の育て方のポイントは結構シンプルです。
それは用土の選択と植物ごとに適した水位の位置に植えること。
この2点を押さえれば特に難しいことはありません。
水位の目安について
水辺植物の中には、水辺に生えるのに水没すると枯れてしまうような植物もいます。
具体的な例ではハナショウブ(花菖蒲)がそれです。
見た目が似ている近縁のカキツバタは根本が水没しても問題ありません。
その一方でハナショウブは根本が水没すると枯れてしまうことがあります。
酸素は水に溶けにくい性質があり、水中は地上と比べて酸素が不足しやすい環境です。
ハナショウブのような湿地植物は水も必要ですが、土中に酸素が届く環境が必要です。
一方、カキツバタのような抽水植物は土中の酸素が少ない環境にも適応した根を持っています。
水辺植物を植え換えるときにポットから引き抜くと腐ったような臭いがします。
これは酸素が不足する環境でも生きられる嫌気性細菌がもつ還元作用によって、臭いのもとになる硫化水素や短鎖脂肪酸などが発生するためです。
水中の泥に根を張る植物は、酸素が不足する特殊な環境に適応した根を持っているのです。
それだけ聞くと「なんだか難しそう」と感じる方もいるかと思いますが、大丈夫です。
ハナショウブのような湿地植物は根本を水に沈めなければ問題ありません。
土が軽く湿っている程度の場所に植えるか、鉢を置くだけです。
このように水辺植物によってそれぞれ好む水位があるため、それを把握して水管理を行いましょう。
湿地植物は根本が完全に水没してしまうと弱ってしまうため、ポット植えの場合は土台を作ってかさ上げしましょう。水深よりも高さのあるポットがあればそれに植え付けても問題ありません。
かさ上げに使えるアイテムたち
レンガブロックを使う
もっともお手軽なのはレンガブロックを土台にする方法です。
土台に使用するものは茶色系統の標準的なものを選びましょう。
モルタルを原料にしているものやコンクリートブロックはカルシウムが溶け出してpHが上がってしまうので使用を避けてください。
あぜなみを使う
あぜなみを使って陸地を作る方法もあります。
基本はあぜなみで陸地の形を作り、土を入れていくだけです。
生きものが集まるビオトープに用いる場合は、あぜなみの外側に石や流木を組んでエコトーンを作りましょう。
用土について
水辺植物用の土は水に沈めて使います。
あたり前のことなのですが、これが用土選びで重要なポイントだったりします。
一般的な観葉植物用の土には鹿沼土やパーライト、バーミキュライトにピートモスなどなど……水に浮いてしまう素材も少なからず使われています。
陸上植物の用土に含まれる、水に浮く素材四天王
これらを含む用土で水辺植物を育てること自体は不可能ではない(むしろ土の性質的にはとても良い)のですが、水を入れると次々に浮いてしまうので見た目がかなり汚くなってしまいます……。
表面に重い土を入れて強制的に沈める方法もありますが、植え替えなど掘り起こした際に浮かんできてしまうため、あまりおすすめはできません。
そこで活躍するのが水辺植物専用土。
もちろん水に沈む素材で構成されているのと、水辺植物が必要とする成分や肥料分も配合済みです。
とくに手を加えなくても水辺植物の育成を楽しめる便利なアイテムです。
はじめての方でも、こういった専用土を使ってもらえれば大きな失敗はしにくいかと思います。
赤玉土などの単体用土のブレンドは、コツを掴んできた中級者以上向けです。
ある程度育成に慣れたら、さまざまな用土のブレンドにも挑戦してみましょう!
▼水辺植物の用土について、より詳しく知りたい方はこちら
肥料について
水辺植物の専用土を使っていれば追加の肥料はほとんど必要ありません。
ただし、スイレンやハスなど花を中心に楽しむ種類の場合は、肥料分が不足すると花が咲きにくくなってしまいます。花をたくさん楽しみたいという方は、水草用の固形肥料を埋め込みましょう。
▼水辺植物用の肥料について、さらに詳しく知りたい方はこちら
育成容器について
使用する容器はスイレン鉢やタライ、バケツなど水をためられるものであればなんでも使えます。
スペースを大きくとりたい場合はトロ舟や角形タライなどを使いましょう。
見た目にこだわりたい方は陶器やFRP製のスイレン鉢がおすすめです。
光について
多くの水辺植物たちは夏場に太陽光がさんさんと注ぐ明るい湿地帯に生えている種類が多いです。
そのため、なるべく明るい日向になるところへ置きましょう。
ポット植えのままでもOK
スイレン鉢やトロ舟を使ったビオトープなどでは容器に土を入れて直接植え込むことがあります。
しかし、ひとまずはポット植えのままでも問題ありません。
あとになって移動させる必要が出てきそうな場合や、メダカなどを入れて掃除などの管理を楽にしたいのであればポット植えで管理する方法がおすすめです。
スイレンやハスの花をたくさん咲かせたり大きく成長させたい場合は直植えにしましょう。
大きく立派に育てたいのであれば根詰まりしないよう、大きな容器とたくさんの土があることが望ましいです。
購入時に小さいビニールポットに植えられているものは3.5号以上のポットに植え替えましょう。
なるべく大きめのポットに植え替えたほうが植物の成長が良くなります。
植え替えるポットや容器のサイズは「どのように育てたいか」で変わります。
ポットやプランター以外にもアイデア次第で様々な容器を使うことができるので、いろいろと試してみるのもおもしろいですよ!
屋外でビオトープ風に楽しむ
シンプルなレイアウトで
水辺植物だけでも楽しみたいという場合は、水を張った容器にポット植えのものを入れるだけでも問題ありません。それだけでかんたんにレイアウトを作ることができます。
ポットを入れただけのシンプルレイアウト例
このセッティングにおける注意点は、1年経過するとポットの中が水辺植物の根でいっぱいになります。
そのままだと成長が悪くなってしまうので、春先のタイミングで植え替えを行いましょう。
エコトーンを意識したセッティングで
「身近な生物が集まるビオトープを目指したい!」という方は、エコトーンを意識したセッティングにチャレンジしてみましょう。
石や流木で作ったエコトーンがカエルやトカゲなどの隠れ家になり、
同時に外と中を行き来するための通路として機能します
エコトーンとは別名を移行帯といい、「異なる環境をつなぐ場所」を指します。
水辺では水中と陸上を繋ぐ浅瀬の部分がそれにあたります。
これがあることで水辺にやってきた生物たちの移動がスムーズになるという要素です。
このような「エコトーンのあるビオトープ=生物の集まる場所」として楽しむときは、大きめの容器に土や石などを入れて水辺植物を植え付けましょう。
購入した植物をビオトープに用いる際の注意点
販売されている水辺植物には海外産も多く含まれています。
そのため、野外の水辺には絶対に植え込まないでください。
例えば、ため池などに園芸スイレンやキショウブが植えられていることがあります。
これらは水辺における優占種になりやすく、在来の水辺植物を圧迫して環境に影響を与えていることから重点対策外来種に指定されてしまいました。
重点対策外来種に指定されてしまいました
またアクアリウム用の水草としておなじみの種類も、野外へ定着し生息地を拡大させてしまっていることから、同様に重点対策外来種に指定されているものが少なくありません。
重点対策外来種とは特定外来生物指定の一歩手前です。
つまり、飼育や栽培が法律で規制される寸前ともいえます。
昨今、外来種というと在来種を圧迫する悪い印象がどうしてもついてしまっています。
しかし、元々は魅力的な観賞用植物として日本へ入ってきた種類も少なくありません。
大切なのは野外の環境に定着させないよう、適切に管理をすること。
魅力的な水辺植物たちを末永く楽しむためにも、野外に逸出させないように注意しましょう!
冬場の管理
冬場における水辺植物の管理は二つに分かれます。
耐寒性のない種類は室内に入れて越冬させ、耐寒性のある種類はそのまま屋外で越冬させましょう。
耐寒性のない種類の越冬
耐寒性のない種類は10月を過ぎて外気温が15℃を記録した時点で屋内に取り込みましょう。
一桁台の気温には耐えられても凍結に弱い種類もいれば、10℃以下で葉を落として枯れる低温に弱い種類もいます。
どちらも油断をしていると、急な冷え込みに晒されたことで枯れてしまうことがあります。※経験談
後になって後悔するよりも早めに対処しておくと安心です。
マングローブ、特にヒルギの仲間のような低温に弱い種類でなければ、室温が10~15℃を保てていれば成長は鈍るものの枯れることはありません。
少しでも成長が鈍らないように太陽光がよく当たる明るい窓辺に置いてあげましょう。
耐寒性のある種類の越冬
耐寒性のある種類は地上部が枯れても地中の根茎は生きていて、その状態で越冬します。
葉や茎など地上部はありませんが根茎も乾燥すると枯れてしまうので、冬場でも水がなくならないように足し水をしっかり行いましょう。
また、耐寒性がある種類でも根茎部分が凍結すると腐ってしまうものもあります。
根茎が凍結することを防ぐためにも、しっかりと水を張って内部まで凍結しないように管理をします。
※冬場の気温がマイナスになることが多い寒冷地では屋内に取り込んで越冬させましょう。
-10℃近くまで冷え込むことがある地域では耐寒性があるとされる種類でも越冬できないことがあります。
無事に越冬ができれば、3月を過ぎて気温が20℃付近になると新芽を確認できるかと思います。
室内での楽しみ方
水辺植物の楽しみ方は屋外のビオトープに限定されるものではありません。
条件を整えれば室内でも充分に楽しむことができるのです。
室内管理のポイントは、なんといっても明るい日差しが当たるかどうか。
実は日差しとスペースが確保できれば、特殊な種類をのぞいてほとんどの水辺植物は一般的な観葉植物よりもかんたんなのです。
使用する容器
使用する容器は、水を入れられるものであればコップや鍋でも使えます。
アイデア次第でいろいろな楽しみ方ができるのも水辺植物の魅力です。
平鉢にそのまま置くだけ
小型の鉢+ポット植えをそのまま
にぎやかに楽しみたいなら寄せ植えで
盆栽仕立てで和風に
人気の苔玉仕立て
ガラス容器で涼やかに
背の高い植物を根洗いにしてシンプルに
▼こんな楽しみ方もおすすめです。
屋内での置き場所
水辺植物は明るい湿地を好む種類が多いため、東~南側に面した窓辺など日差しが差し込む場所が適しています。※西日が当たる場所は夏場にエアコンなしだと高温になり過ぎることがあります。
しかし、室内の状況によってはそういった日差しの当たる場所に置けないこともあるかと思います。
そのときは植物用のLEDなどを用意して光を当ててあげましょう。
あとは多少水がこぼれても問題ない場所を選びましょう。
これも何気に重要な要素です。
水が少しこぼれても大丈夫なように、プランターや盆栽の鉢皿を下に置くのもおすすめです。
日常の管理
水換えと足し水
水換えは基本的に必要ありません。
セット直後にアオミドロなど藻がたくさん出てしまうようなことがあったときに行う程度です。
そのため、日々の管理は水換えではなく足し水になります。
屋内の場合
水辺植物の水管理は基本的に水を入れるだけ。
水中にメダカなどが入っていなければ、水が減っても乾ききる前に足せばよいだけです。
水やりの回数が少ないといわれるサボテンや多肉植物、エアープランツのように蒸れや時間帯などを気にしなくてよいので、水辺植物のほうが水やりはずっと楽と言えるでしょう。
屋外の場合
メダカなども一緒に入れている場合は、容器の2/3まで水が減ってきたら足し水をしましょう。
大きめの容器になるとバケツやジョウロでの足し水はなかなかの重労働。
そこで、屋外の水道にホースをつないで足し水する方法がおすすめです。
散水用のホースアダプター類を使うと用途に応じて拡張できるので、手間を減らしたい場合はこういったアイテムを活用しましょう。
とにかく足し水の手間を減らしたいというときには、タイマー制御の水やりキットが非常に便利です。
自動の水やりキットともなると良いお値段はしますが、足し水の自動化はとても楽になります。
トリミングした水辺植物の処理について
順調に育ってくると今度はトリミングが必要な状況になってくるかと思います。
トリミングして切り取ったり、引き抜いた株は基本的に生ゴミや燃えるゴミとして処分しましょう。
下水などには流さないようにしてください。
実はこの部分がとても重要です。
水辺に生える植物たちは生息地を広げる戦略として、小さな破片が流れ着いたところで根付いて成長する種類が少なくありません。
アクアリウムやウォーターガーデニング由来と言える逸出例としてグロッソスティグマやウォーターマッシュルーム(ウォーターコイン)などが、その代表と言えます。
これらが野外へ逸出してしまった理由としては、排水などに含まれた植物体の破片がたどりついた先で定着した可能性が高いと考えられています。
破片ほどのサイズから育っていくのは水草水槽の作り方を見るとわかりやすいかもしれません。
例えば、チャームの水草は下のようなパックに入れて発送しているものもあります。
こういった水草の小株を水槽に植え込み、適切な環境であれば根付いて新芽を伸ばし始めます。
そして上手く育てるときれいな水草水槽ができあがります。
当然、野外の環境では水槽内よりも水草はよく育ちます。
日本の冬を乗り切れる種類であれば、いとも簡単に日本の水辺へ定着してしまうというわけなのです。
そのため、切り取った水辺植物(特に小型の水草)の処分は適切に行いましょう。
まとめ
今回はホームセンターで初めて水辺植物を買ってみたという方のために、育て方と扱い方について基本になるところを解説してみました。
押さえるべきポイントは下記のとおりです。
ここさえ押さえてしまえば難しいことはありません。
さあ、気になるあの水辺植物をお迎えしましょう!
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