とても身近でポピュラーな貝といえばタニシですね。田んぼや用水路などでよく目にした人もいるでしょう。このタニシ、水槽のお掃除屋さんとして優秀な能力を持ちます。
今回は水槽・ビオトープなど活躍の場が多いタニシをご紹介したいと思います。
生物学的データ
学名:Bellamya quadrata histrica
分類 | 原始紐舌目・タニシ科・ヒメタニシ科 |
殻長 | 最大3cm |
食性 | コケ・デトリタス・有機物 |
分布 | 日本・中国・タイ・東南アジア |
日本の北海道から沖縄、沼・川・水田などの浅く緩やかな水域や止水域に生息しています。主に石などに付着している藻類を食べて生活しているようです。
茶褐色で大きさは最大殻高3cmほど。寿命は約2~4年、殻頂側(真上)から見て時計回りをしています。
名前の由来は、田に棲む貝の王という意味合いで「田主(たぬし)」からタニシ、素足で入った際に足の裏を痛めることから、「田の中の石からタノイシ」からタニシとなったといわれています。
ところで、滋賀県には御蜊様(おつぶさま)といってタニシを神と祀る神社「蜊江神社(つぶえじんじゃ)」があります。
古くから大雨で野洲川の氾濫による水害があり、1721年(江戸時代)にも堤防が破れ、社殿が流されてしまうほどの洪水が起こったようです。しかし、タニシが付着した神輿が社殿の前で止まったことで祭神は流されずに済み、それ以来、感謝した人々はタニシを御蜊様(おつぶさま)と呼び、神の使いとして大切にするようになったといわれています。
水槽の掃除屋
ヒメタニシといえばお掃除屋さんとして有名です。
その理由の一つとして食性があげられます。
ヒメタニシは、他の巻貝と同じくデトリタス食、クレイザー食(刈り取り食者)の他に、二枚貝と同じ『ろ過摂食』という摂食方法を持ちます。
その食性の広さから、水槽内の死骸やエサの残り・微生物のろ過を行えることから、
タニシの導入効果として、次のことが挙げられます。
①白濁をこし取る
②水槽の面や石に生えたコケを食べる
③アオコやグリーンウォーターを除去する
メダカ飼育のベストパートナー!(混泳)
ヒメタニシは環境適応能力が高いことで混泳可能な種も多く、日本在来の小型魚、淡水エビに向いています。
特にメダカとの混泳は相性抜群です。お互い生きた個体を捕食することはなく、タニシは食べ残した餌を食べるため、餌の無駄も減らすことになります。急激な水質悪化も防げます。
アンモニア、亜硝酸、硝酸塩に対して敏感に反応するため、水質バロメーター的ポジションにもなり、コケ対策になります。
※掃除屋として・ろ過摂食を用いた水質の管理約としても、ビオトープやトロ舟などでメダカの飼育をしている環境での能力・相性が良いです。
タニシの利用方法を知っていますか?
アクアリストの中でのタニシといえば、水棲生物としての認識だと思います。観賞用・お掃除役以外での利用方法が多く存在しています。
今はあまり利用されていませんが、はるか昔から農家では「田んぼの恵み」として、タニシは食用されてきました。ただし、現代の田んぼのタニシは、農薬が含まれている可能性があり、食べるのは控えた方がいいでしょう。
食用の他に漢方としても利用されており、「解熱」「お通じの改善」「心臓・腹痛の治療」など多くの働きがあるといわれているようです。
他には鯉やニワトリ・ヘイケボタルの幼虫の餌としての利用方法があります。
タニシによく似た外来種として、「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)」が知られています。
日本のタニシ
マルタニシ
学名:Bellamya chinensis laeta
日本原産。
全体的に殻が丸く、ずんぐりしたフォルムを持ちます。
成長が遅く、かつ長生きのようで、寿命は100年以上といわれます。
オオタニシと似ていますが、貝殻で判別が可能になります。
オオタニシ
学名:Bellamya japonica
日本原産。
濃い茶褐色の殻を持ちます。
大型であることから食用とされていたようです。
成長前の貝殻が角張った形状をしており、別名「カクタニシ」などと呼ばれているそうです。
(角張った部分が成長しても残る個体も存在します。)
こんな子たちも……
まめヒメタニシ
学名:Bellamya quadrata histrica
ヒメタニシと同種です。個体差になりますが、0.5~1.5cmほどのヒメタニシを指します。
小型ビオトープなどの導入にオススメです。
趣タニシ
学名:Bellamya quadrata histrica
ヒメタニシのバリエーションパターンの一つ。
入荷が少ないこともあり、詳細は不明です。
ナガタニシ
学名:Heterogen longispira
淡水生の貝の仲間で琵琶湖固有種です。
水深は10m前後に多く生息していますが、水深30m位の場所にもいるようです。
春に体内受精を行い卵胎生で小貝を産みます。
(11月に採取した個体の中には小貝を体内にとどめていたようです。)
飼育環境・設備
メリットだらけのようですが、もちろんデメリットもあります。対策とあわせて挙げてみました。
- 意外と28℃を超える高水温が苦手。→屋外:日陰などに設置。 屋内:クーラー・ファンを使用。
- 倒れたら自力で起き上がれない。→流木や石を増やし、起き上がれる確率を上げる。
- 金魚・大型フグにも食べられてしまう。→肉食または捕食される混泳はさせない。
- 複数飼育すると絶え間なく殖え続ける。→オスを選ぶ。減らすための生体を導入。
- 臭い。→水槽での長期飼育により臭いはなくなる。活性炭を導入。
- 柔らかい水草を食害してしまう。→餌不足にならないように気を付ける。(100%回避は無理です。)
皆さんのご意見はあると思いますが、良い点も悪い点も紙一重というところでしょう。
上記を踏まえて環境・設備をご紹介します。
水槽
最適な容器は特にありません。繁殖能力が高いこと、水質の悪化、水温の管理を考えると水量の小さな容器よりは、30cm以上の水槽での飼育が望ましいです。
ビオトープやメダカ飼育で使用している容器での飼育も可能です。
水質・フィルター
弱酸性~弱アルカリ性・軟水~硬水と水質には幅広い適応能力があります。水質汚濁にも強いのですが、急激な変化・過度な悪化の際には水面に上がり、アンモニアや亜硝酸塩が多くなると殻を閉じてしまいます。酸素不足でも同じ状態を起こしますのでご注意ください。
水温・ヒーター
0~28℃と幅広い温度帯での飼育が可能となります。
高水温に強い種ではありますが、28℃以上の水温・夏場などの急激な水温上昇には注意が必要になります。
低水温でも問題はありませんが、ヒーターを使った水槽では、ヒーターに直に張り付いて、やけどで死んでしまうことがあります。ヒーターカバーを付けることで防げます。
底床
ヒメタニシは、幅広い水質に適応能力があるため、使用用途に合った底床を使えます。ただし、休眠期や低水温・高水温下では底床に潜る性質があります。
ヒメタニシは底床によく潜ります。
潜りやすいよう細かい底床を厚めに敷いてあげると良いでしょう。
餌
ヒメタニシのエサは、コケ・藻類、植物プランクトン、魚などの人工飼料です。
春~秋にかけて活発になり、摂食量が多くなるためエサ切れに注意します。春は水温の上昇に合わせて給餌量を増やし、秋~冬にかけては活動の低下に合わせて減らしていくようにします。
水草は食害されてしまうことがあるので、本種の導入には注意が必要になります。
繁殖方法・雌雄判別
雌雄判別
タニシは雌雄同体ではなく雌雄異体です。
繁殖方法
繁殖についてはオス・メスがそろっていると殖えます。
卵胎生であることから繁殖行動を行い、育児嚢でふ化した稚貝が生まれてきます。
自然環境下では6~9月に、約30~40個大きさ約3~5mmほどの稚貝を産みます。
適した水温は20~30℃です。
エサが十分にあると繁殖の成功率は高く、産み出す稚貝の数が増えます。
稚貝は移動速度が遅く、固形エサのみを与えても親が先に食べてしまうため、エサ切れを起こして生存率が低下します。
稚貝専用水槽での管理か、グリーンウォーターで管理してエサ切れをなくすと生存率が上がります。
pHもまた重要なポイントにです。成長(殻)に必要なカルシウムの摂取、アルカリ性に傾けることで殻が溶けることを回避できます。
まとめ
優れた脇役、ヒメタニシについてご紹介しました。
タンクメイトや水を透明にするアイテム扱いされてしまいますが、ろ過摂食や卵胎生など興味深い生態を持ち合わせています。
ヒメタニシをメインに観察するスローライフなアクアリウムもまた良いと思います。
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